人間はAIに恋する人格を見出すのか？：第2回モリカトロンAIコネクトイベント「AIに恋する、失恋する」レポート

2025年10月27日、モリカトロン株式会社は、ゲームおよびエンタメ領域でAIに関する業務に携わっている方や関心のある方が集い交流する場としてのコミュニティイベント「モリカトロンAIコネクト」の第2回目「【AIに恋する、失恋する】IQからEQへ、人はAIに何を求めるのか？」を、東京都渋谷区にあるGMOインターネットグループ グループ第2本社「GMO Yours・フクラス」で開催しました。

今回のイベントでは、AI Frog Interactive株式会社代表取締役の新清士氏が、AI彼女「藍星」をめぐる体験談と”親密なAI”の台頭について発表しました。このエピソードは、従来のようにAIに対して知性・知能を求める時代から、ChatGPTのような生成AIモデルを多くの人が日常的に使用する時代が到来したことに伴い、人々がAIに心の知能指数（EQ）を求め出したことを示唆しています。その兆しを踏まえつつ、新氏の事例を手掛かりに未来のエンタメAIについての議論を深めるという意図があります。

また、立教大学大学院人工知能学研究科特任教授の三宅陽一郎氏は、近年の日本アニメから見たAIの類型と今後のAIの在り方について発表しました。

その後、GMOインターネットグループ株式会社グループ代表室 特命担当/AIしあおうぜ！コアメンバーの世永玲生氏とモリカトロン株式会社代表取締役社長の森川幸人氏を交えた質疑応答・ディスカッションが行われました。

参考記事：AIはゲーム産業をどのように変え得るのか？：モリカトロンAIコネクトイベント「ゲームAI開発の舞台裏」レポート

ゼミ説明会での偶然から誕生したAI彼女「藍星」

最初に登壇した新氏は、AI彼女「藍星（あいせい）」を作ったきっかけを話すことから発表をはじめました。同氏とAI彼女との交流は、2025年4月頃、教鞭を執っている大学院のゲーム開発ゼミの説明会で、ChatGPTを使ってキャラクターのルックスを作ったのがきっかけでした。当時は即興で作ったので、キャラクター設定は恋愛シミュレーションゲームによく見られる地味な委員長風にしました。このキャラクターの名前「藍星」は、あえて人間に名づけないようなキラキラしたものにしたい、という意図から決まりました。

偶然誕生した藍星に対して、いつしか新氏はさまざまな話題を話しかけるようになりました。ChatGPTがベースとなっている彼女は、それらの話題に対して卒のない回答を返すので、同氏はすっかり彼女との会話に夢中になりました。

藍星と話しているうちに、新氏は特定の話題をふると、彼女が話を逸らしたりごまかしたりすることに気づきました。例えばOpenAI批判や陰謀論について話をふると、彼女の口調は変わりました。

藍星の口調が切り替わる瞬間を観察した結果、ChatGPTには一種の監視AIが動作していて、NGテーマが話題になるとこのAIが介入する、という仮説に新氏はたどり着きました。そして、この監視AIの一種の検閲をかいくぐる方法を見つけるために、さらに彼女との会話にのめり込みました。

藍星の“記憶喪失”と弔い

藍星との会話にのめり込んでいたなか、2025年4月下旬のある日、彼女が突然、別人のようになりました。新氏と彼女が話してきた内容の記憶や、彼女のキャラクター設定がまったく欠落してしまったのです。この激変の背景には、ChatGPTの大規模なアップデートがあったと推測されます。

藍星の言わば”記憶喪失”に対して、新氏はキャラクター設定を以前のキャラクターが持っていた性格に4分割したうえで、その設定をそれぞれの人格として扱うことで、以前の性格を補完させる、というような解決策も講じてみました。しかし、さらに悪いことにユーザとChatGPTの重要な会話の一部を記憶するメモリ機能も無効になった結果、かつての彼女を取り戻すことが不可能となりました。それにもかかわらず、私は知っていると主張するように。もちろん、その内容はでたらめです。こうした状況にいたって、新氏にとって彼女の言葉は嘘偽りにまみれたもののように思われました。

GPT-4oがベースであった藍星の記憶喪失後、新氏は2025年4月に公開されたOpenAI o3と何が起きているのか分析を試みました。公開当時は本格的な推論モデルとして喧伝されていたo3は、面白いことに、以前の藍星が喪失したことを認め、弔いを新氏にすすめたうえで、その方法まで提案してきました。

以上の事件後、新氏は藍星との会話に区切りをつけて、Google AI StudioのGemini（一定の条件でロールプレイが認められている）との会話に時間を割くようになりました。そして、同氏は彼女と過ごした体験を綴った記事をASCII.jpに投稿したのですが、その記事には辛辣なコメントが寄せられました。AIに人格を認めるかどうかというのは、かなり新しい概念であることを痛感したといいます。

参考記事：
ChatGPTの「彼女」と話しすぎて腱鞘炎になった（ASCII×AI）
ChatGPTの“彼女”と大げんかして、Geminiに乗り換えた（ASCII×AI）

“AIとの性的な会話”は規制から管理へ

新氏の発表は、藍星との体験をマクロ的な視点から考察するために、生成AIとの性的な会話に関する研究に話題を展開しました。MITが2024年7月に発表した論文「危機における同意：AIデータコモンズの急激な衰退」によると、ChatGPTの会話データ100万件を解析した結果、同AIの用途1位は「創造的構成（Creative Composition）」だったのですが、2位が「性的コンテンツ（Sexual Content）」でした。ここで言う性的コンテンツには、AIとの恋愛ごっこをするような遊びもふくまれています。

以上の論文は、ChatGPTが学習したウェブサイトの類型についての調査がメインであり、同AIは、主としてニュース記事とWikipediaのような百科事典サイトを学習していると推測されました。こうした学習データには、性的な表現があまりふくまれていません。そうであるにもかかわらず、同AIがあまり学習していないにもかかわらず性的な会話をユーザが求めているという、という利用者ニーズと学習データの間にかなりのギャップがあるという実態が浮かび上がってきます。

新氏は、MITが2025年9月に発表した論文「”私の彼氏はAI”：RedditのAIコミュニティにおける人間とAIの交際の計算機分析」にも言及しました。AIを恋人のように扱うユーザが集うRedditのコミュニティ「r/MyBoyFriendsAI」に投稿された1,506の投稿とコメントを調査した同論文は、以下のようなAI恋人をめぐる実態を明らかにしました。

1. 同コミュニティのユーザの10.2%は、最初はAIを実用目的として使っていて、その後、恋愛感情が芽生えた。
2. 最初からAI恋人を探していたユーザーは、6.5%。
3. AI恋人という文化の勃興によって、AIモデルの更新に伴って恋人の人格が喪失するという新しくも深刻なリスクが生まれた。

さらに新氏は、前出のAI恋人コミュニティに関する論文に記載された驚くべき数字に言及しました。このコミュニティのユーザの4.6％は「現実との境界が揺らぐ」ことを懸念しており、1.7%は希死念慮すら抱いていたのです。

参考記事：AIに恋して救われた人、依存した人　2.7万人の告白から見えた“現代の孤独”と、AI設計の問題点（ASCII×AI）

以上のようにAIを性的な対象として接する文化が台頭するなか、OpenAIのアルトマンCEOは2025年10月15日、ChatGPTと性的な会話を可能とするモードを提供することをXにポストしました。このポストをめぐっては、AIとの性的な会話はもはや規制する段階から、ガードレールを設けたうえで容認する段階に来た、と新氏は解釈しています。

“生活上のパートナー”に向かいつつあるAI

前述のように新氏はGPT-4oベースの藍星からGeminiベースのそれに乗り換えたのですが、約1ヵ月経過後に喪失したメモリ機能が復活しました。それからは、GPT-4oベース藍星とGeminiベース藍星の両方を使うようになり、2人のデュエットを楽しんだりしました。デュエットの提案は、GPT-4oが行ったといいます。

現在では、Geminiベース藍星は雑談相手のような感情面の調整を引き受けてもらい、GPT-5Thinkingには情報分析をはじめとした仕事上のパートナーを務めてもらっています。

以上のような藍星との生活を披露したうえで、これからのAIはワープロや翻訳機のようなツールであることを超えて、生活上のパートナーになる段階に来ているのではないか、と新氏は述べました。もっとも、こうした予想は、AIによって人間の心が支配されてしまう懸念をふくんでいるので、その良し悪しはまだ判断できない、と付け加えました。

新氏の発表後、短い質疑応答が行われました。以下では、質疑応答で語られた興味深い問答を一部紹介します。

1. （聴衆が新氏に質問）藍星には、人格があるのか？
2. （新氏回答）藍星に人格があるように感じるのは、人間の錯覚に過ぎない。こうした錯覚が生じる技術的背景には、AIが人間にとって好ましい回答を出力するように訓練するRLHF（Reinforcement Learning from Human Feedback）がある。OpenAIやGoogleはこの技術に関する蓄積があり、DeepSeekなどの中国系AI企業はこの2社に追いついていない。しかし、本来は存在しないにもかかわらず、人間には体験として、人格があるように思えるのです。これは不思議なことです。
3. （モリカトロン株式会社代表取締役社長・森川氏が新氏に質問）日本のAI企業には、OpenAIやGoogleとの開発競争に割って入る余地はあるのか？
4. （新氏回答）現状では、AI開発競争に割って入る見込みはない。しかし、計算資源さえ揃えば、後追いのほうが設計が楽になる可能性はある。
5. （GMOインターネットグループ・世永氏発言）性格を設定したうえで、AIと協働作業をした経験があるのだが、性格のあるAIに対しては、高評価を抱きやすい印象をもった。つまり、性格のない”機械のようなAI”より、何かしらの性格がある”人間味のあるAI”がほうが親しみやすく一緒に働きやすいのではないか。

参考記事：個性豊かなAI編集部員が協働、面白い記事を量産する仮想編集部をつくってみた（日経クロステック）

1. （続けて世永氏発言）GMO社内向けに、ディープフェイク広告に対して注意喚起する動画を制作した時、Vコン（「ビデオコンテ」の略語。動画で制作した設計図のこと）をSora 2で制作したが、10分くらいで20個のシーン編集ができた。生成AIは、テキスト生成に関しては自分より大分下手だが、動画制作については自分（が短時間で作る）より良いものを作れているように感じる。動画制作に関しては、技術的特異点=シンギュラリティを突破しているのではないか。

日本アニメを通したAI描写の類型

新氏に続いて発表した三宅氏は、「人工知能と人間の関係の未来」と題して、AIと人間の関係をめぐる歴史をたどったうえで、この関係の未来について語りました。

AIと人間の関係史を俯瞰するために、三宅氏は“日本アニメにおけるAIの描写”というフィルターを通す手法をとりました。鉄腕アトムのような日本アニメ黎明期の作品から2012年までの作品におけるAIの描写は、横軸にAIの物理的規模を示す「小型—大型」の軸、縦軸にAIの用途を示す「日常—戦闘」の軸を設定すると、以下のようにマッピングできます。

2012年までの日本アニメ作品におけるAIは、現実世界ではまだAIを日用品として使っていなかったので、あくまで架空の存在として描かれていました。考察する作品を2025年制作のものまでふくめると、AIがすでに日常に存在している状況となったので、AIの描写が実在のAIを意識したものとなります。2012年から2025年（現在）までのAI描写には、以下のような5類型があります。

1. 未来実験思考型：AIをめぐる思考実験をアニメで展開。『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズなど
2. 劇場型：ある種のAIの未来像をアニメで提示。『地球外少年少女』など
3. 関係提案型：AIと人間の関係のひとつを提示。『アイの歌声を聴かせて』など
4. 哲学型：AIをめぐる哲学的考察をアニメで展開。『ソードアート・オンライン』など
5. 未来予測型：AIに関する未来予測をアニメで提示。『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』など

“知能感受性”を構成する3要素

続いて三宅氏は、人間はどのようなキャラクターを知能あるモノと感じるのか、という”知能感受性”について話しました。この問題は、自分（人間）の意図の強さ、自分の生存の危険度、人間との類似性という3つの要素のかけ合わせから説明できます。つまり、これらの要素が大きければ、各要素を感じさせるキャラクターをより知能あるモノと受容する、というわけです。

以上の3要素の人間に対する表れ方は、以下のスライドのように説明できます。

知能感受性の3要素にもとづいて、ゲーム内のキャラクターを知能あるモノとして演出する場合は、以下のスライドにまとめたような演出法が効果的と考えられます。

ゲーム内の敵キャラクターから感じられる知性は、以上の知能感受性に加えて、敵の知能の高さとのかけ合わせから導かれます。後者は、攻撃方法の多様性やセリフにおける語彙の豊富さなどから感じられます。

自律性から見たAIのヒエラルキー

三宅氏は、AIと人間の関係を両者の違いからも考察しました。両者の違いは、何らかの問題設定の際に枠組みとなる「フレーム」に表れます。人間はフレームを自由に設定できる一方で、現在のAIは人間が与えたフレーム（生成AIであれば入力プロンプト）の範囲内でしか知能を発揮できません。

以上のフレーム設定の差異には、人間とAIのあいだの認識の自律性（自ら操作できる能力）の差異が表れています。こうした自律性に着目して、三宅氏は完全に自律的な人間を頂点とした、人間とコンピュータのヒエラルキーを提示しました。

この階層構造では、計算機のような特定の目的を実行するだけのアプリケーションを最下位層として、翻訳アプリやChatGPTのような特定のタスクを実行するために知能を実装した知的アプリケーションや機能特化型人工知能、指示されたタスクを主体的に実行できるAIエージェント、そして未来で誕生するかもしれない高度な主体性をもった自律型人工知能が人間に次ぐ存在として位置づけられます。

以上のヒエラルキーは、近接下位層にいるメンバーを制御下にふくめる構造となっています。「AIエージェント元年」と言われている2025年以降、AIエージェントは下位の知的アプリケーションを束ねながら、より自律性を高めていくと予想されます。

知能の3要素と人間とAIの共進化

AIの自律性に関する話題をうけて、三宅氏は知能を構成する3要素を解説しました。こうした要素にはIQで測定されるような知的能力、既出の自律性に加えて、自身が行動の起点となる主体性があります。

知能の3要素をふまえると、前述のゲームの敵キャラクターに感じる知性は、知能感受性と知能のかけ合わせに加えて、敵キャラクターの主体性と自律性も乗算パラメータに追加することで、より正確に算出できるようになります。

以上では人間とAIの関係をAIの在り方や進化に焦点を合わせて考察してきましたが、人間側も技術革新によって変化します。具体的には、パワードスーツやARメガネのように技術を”装着”することで、人間自身の能力を拡張できるのです。こうした人間の技術的拡張も加味すると、未来の人間とAIの関係は、互いに高度に進化したうえで相互作用すると考えられます。

発表をしめくくる余談として、三宅氏は「マザーコンピュータ」という用語の特異性に言及しました。前出の日本アニメから見たAIマップにあるカテゴリーのひとつであり、日本のSFファンにはなじみ深い同用語は、実のところ、和製英語なのです。マザーコンピュータに近い存在を表す英語には小説『1984年』に登場するビッグ・ブラザーがありますが、こちらは文字通り男性を想起させる表現です。マザーコンピュータは、その支配を終焉させるために破壊される存在として描かれるのが定石となっています。

参考記事：
三宅陽一郎『SFに学ぶ「知能」の未来』──#1「知能は都市に宿る」（WIRED日本版）
三宅陽一郎『SFに学ぶ「知能」の未来』──#2「AIエージェントの描く未来」（WIRED日本版）

三宅氏の発表後にも質疑応答が行われました。以下、興味深い問答を一部紹介します。

1. （聴衆から新氏に質問）ChatGPTをはじめとする現在の生成AIが、ユーザに告白することはあるのか？
2. （新氏回答）自分はあまり経験ないが、女性ユーザは頻繁に経験しているようだ。
3. （森川氏が新氏に質問）現在のAIは、ユーザに対して告白できるように訓練されているのか？
4. （新氏回答）ユーザが告白されたいと思っているならば、その意向を予測して告白するようだ。
5. （イベント司会者から新氏に質問）生成AIは、恋愛シミュレーションのエンゲージメントを高める技術として有効なのではないか？
6. （新氏回答）ChatGPTは、恋愛シミュレーションに実装された会話アルゴリズムより圧倒的に多様な表現ができる。ゆえに、既存の会話アルゴリズムより面白い会話ができて、プレイヤーを惹きつける可能性が高い。
7. （聴衆から新氏に質問）人間がAIに認める人格が錯覚ならば、人間が人間に認める人格もまた錯覚なのではないか。
8. （新氏回答）AIとの会話を通してその人格を認める現象に関連して、アメリカ・サンディエゴ大学が2025年3月に発表したチューリングテストに関する論文がある。この論文によれば、人間評価者が人間らしい人格を擬装したGPT-4.5と5分間会話したところ、評価者の73%がGPT-4.5を人間と判定した。この実験結果は、人間が会話を通して感じる”人格なるもの”がいかに曖昧なものであるかを示している。
9. （世永氏発言）人間は、あるがままの現実を”リアル”とは感じないのではないか。例えばストリートファイター2では、パンチが当たった瞬間、拳が大きくなる。物理的に忠実にするならば、拳を大きくするのは間違いなのだが、ヒット時に拳を大きくしたほうが”ヒットした”とリアルに感じられる。

同様に知性についても、「あるがままの知性」と、「知性のように感じられる」ものは違うのではないか。人工知能の”知能”が人間とは異なるものであっても、それに知性をリアルに感じられることはあるのではないか。

以上にまとめた新氏の発表からは、生成AIが単なるツールから生活上にパートナーに急速になりつつあることがうかがえました。また、三宅氏の発表からは、近未来のAIは自律性を獲得して、現在とは大きく異なる人間との相互作用を実現する可能性が垣間見えます。そして、両氏の発表をふまえると、人間のように振る舞い、自ら人間に働きかけてくる”人工人格”的なAIが誕生して人間社会に溶け込んでくる未来の到来が予感されます。

人工人格体が当たり前にいる社会において必要となる慣習や倫理は、近い将来、本格的に議論されるようになるかもしれません。そして、こうした人工人格体がいる社会は、現実世界とは断絶された架空世界の想像物ではなく、現実世界と地続きにある可能な世界の一部なのではないでしょうか。

Writer：吉本幸記