AIが紡ぐ新時代のウェブ体験：月刊エンタメAIニュース vol.72

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

タブから生まれる専用アプリ

グーグルは12月11日、Gemini 3を活用した新たなブラウジング体験「GenTabs」を発表しました。

GenTabsは、Google Labsが提供する実験的プラットフォーム「Disco」の第1弾となる機能で、開いているタブやチャット履歴から複雑なタスクを理解し、インタラクティブなウェブアプリケーションを自動生成してくれます。

これまでは旅行の計画を立てたり、複数の情報を比較検討したりする際には、いくつものタブを開いて作業する必要がありました。GenTabsはこうした煩雑さを解消し、ユーザーの課題に応じて最適なツールを生成してくれます。コードを書く必要はなく、自然言語で説明するだけで必要なアプリを作成でき、必要に応じて改良することも可能です。

さらに、ユーザーが思いつかないようなツールをAIが提案してくれる機能も備わっています。生成されたすべての要素はウェブ上の情報と結びついており、情報源へのリンクも常に表示されるように設計されています。

GenTabsは現在、macOS向けDiscoアプリのウェイトリストに登録したテスターを対象に、限定的に公開されています。グーグルによると、初期テスターは1週間分の献立作成や、日本へ桜を見に行く旅行の計画、小学生を対象にした惑星の学習プランなど、すでにさまざまな用途でGenTabsを活用しているということです。

今後、テスターからのフィードバックを基に改良を重ね、将来的にはグーグルの他のサービスへの統合を検討中とのこと。グーグルは、このプロジェクトを通じて新たなウェブブラウジングの未来像をかたちづくっていくとしています。

声優の声を守り、世界へ届ける

声優事務所の81プロデュースは12月15日、AI音声技術を手がけるイレブンラボジャパンとの業務提携を発表しました。この提携を通して所属声優の声をイレブンラボに登録し、オリジナルの声質を保ったまま多言語化する技術の提供を受けることで、日本のコンテンツ産業のさらなる発展に貢献していきたいということです

近年、声優の声のデータがAI生成音声に不正に利用される事例が国内外で増加しています。創業45年で400名以上の声優を抱える老舗事務所である81プロデュースは、業界全体が頭を抱えるこの課題に一石を投じる姿勢を示しています。

イレブンラボは、VoiceCAPCHAやデジタル透かし、C2PA規格などを駆使して声が本物であることを確認するとともに、不正利用を防ぐ仕組みを確立しています。また、登録した声の品質が非常に高く、声優本人の声質やトーンを維持したまま29カ国語もの多言語に生成できる点が強みだということです。

この提携により、「日本語の声優」と「多言語の声優」を兼ね備えた「ハイブリッド声優」という新しい概念が生まれることを、81プロデュースは期待しています。アニメや映画、ゲームなど、許諾を得たコンテンツを多言語化することで、世界中のファンが元の声優の声のニュアンスを保ったまま作品を鑑賞できるようになるかもしれません。

81プロデュースの代表取締役社長である南沢道義氏は、「声優とAIは共存しコンテンツが拡大・発展する時代へ進むと思います」とコメントし、次世代が安心して生成AIと向き合える環境づくりを目指すとしています。吹き替えによる多言語化のスピードやコストを改善することで、海外市場における日本発コンテンツの競争力の向上につながることが期待できるということです。

年賀状じまいの流れにAIで対抗か

日本郵便は12月15日、グーグルのGeminiを活用した年賀状作成サービス「#Geminiで年賀状」の提供を開始しました。Geminiの最新画像生成モデル「Nano Banana Pro」を使うことで、誰でも無料で手軽にユニークなAI年賀状を作成できるようになります。

このサービスは、「年賀状はこんなに簡単に、楽しく作れる！」をコンセプトに、これまで年賀状に触れたことがなかった若年層に向けて、年賀状文化に触れるきっかけを作りたいという日本郵便の思いと、Geminiをより多くの世代に活用してもらいたいというグーグルの思いが重なって実現したとのこと。日本郵便が年賀状文化の醸成に生成AIを活用するのは、今回が初の試みです。

特設サイトでは、和装デザインや浮世絵、モノクロデザイン、おせち、雪景色、プリクラ風、毛糸デザイン、4コマ漫画、来年の干支をモチーフにしたジョッキーまで、9つのテンプレートが用意されています。好きなテンプレートを選択し、自分で撮影した写真などの画像を複数枚アップロードするだけで、Nano Banana Proが画像を組み合わせて年賀状を生成してくれます。オリジナルのテキストメッセージを追加したり、縦横比を調整したりすることも可能です。

生成されたオリジナル年賀画像は、そのままデジタルの年賀状として利用できるほか、「郵便局のプリントサービス」の専用ページから紙の年賀状としても印刷できます。なお、特設サイトは2026年1月15日まで開設される予定です。

政府がAI活用で国産LLMを公募

デジタル庁は12月2日、ガバメントAIで試用するための国産大規模言語モデル（LLM）の公募を開始しました。

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人口減少と少子高齢化による担い手不足が深刻化するなか、公共サービスを維持・強化するためには、政府におけるAIの積極的な利活用が不可欠です。こうしたなか、デジタル庁は2025年5月以降、すべての職員が生成AIを利用できる環境「源内（げんない）」を構築し、職員による利活用を進めてきました。また、他府省庁への展開にも着手しています。

行政実務の質向上や省力化を実現するためには、日本語の語彙や表現、行政文書特有の記述様式に適合した国内開発のLLMの活用が重要だと、政府は考えています。また、行政の信頼性を確保しつつ、安全な生成AIの利活用を推進する上でも、国産LLMが欠かせないということです。

今回の公募は、国内企業や研究機関が開発した自然言語を取り扱うLLMを対象としており、対話型AIサービスの提供や行政実務に特化したAIアプリケーションへの組み込みなどが想定されています。また、政府職員が「機密性2情報」を取り扱えるよう、ガバメントクラウド上の推論環境で動作することが求められており、海外の主要なLLMと比較したベンチマークテストの結果を提供することも条件に挙げられています。選定された国内開発LLMは、2026年度中に源内上で試験導入され、評価・検証が実施される予定です。

公募期間は、2025年12月2日から2026年1月30日まで。2026年2月から3月ごろに選定が完了します。この取り組みにより、国内AI技術の発展と政府業務の効率化が同時に進むことが期待されています。デジタル庁は国内企業等と連携・協力することで、これからも国内開発LLMを積極的に活用する取り組みを推進していくとしています。

Writer：Ritsuko Kawai