LLM搭載でより親密な存在に。進化し続けるコンパニオンロボットの現在

LLMの台頭は、ロボットの進化にも影響を与えています。影響を受けているのは、工場で稼働している従来の産業用ロボットではなく、人間の生活圏で活動するサービスロボットです。こうしたロボットは、LLMを搭載することで人間のユーザと自然言語でコミュニケーションできるようになりました。

サービスロボットのなかでも、LLMを搭載することで新たに誕生したのが、交流を目的に開発されるコンパニオンロボットです。これらは「AI彼女」のようなコンパニオンAIに比べると発展途上にあるのですが、本稿ではこれらの市場を概観したうえで、世界と日本の事例を紹介します。

2034年には約269億ドル市場に成長

カナダとインドに拠点を置く調査会社Precedence Researchは2025年4月、エンタメ用ロボット市場に関するレポートを発表しました。「エンタメ用ロボット」が意味する範囲は、ロボットペットに代表されるような狭義のコンパニオンロボットに加えて、テーマパークでパフォーマンスを披露するロボット、さらには家庭向け教育用ロボットもふくんでいます。

以上のレポートによると世界のエンタメ用ロボット市場は、2024年には38億9,000万USドル規模であり、年平均成長率21.35%で成長して、2034年には269億4,000万USドルに成長すると予想されています。

2024年における同市場を地域別に見ると、シェア1位は日本をふくむアジア太平洋地域で46%と半数に迫っています。同地域は今後も成長し、2034年には125億5,000万USドル規模となり、シェアも2024年時点とほぼ変わらないと見られています。同地域がトップシェアなのは、欧米に比べて”隣人としてのロボット”という文化的感覚が強いためかもしれません。

今後もっとも成長すると見込まれるのは、北米市場です。この地域では、テーマパーク用ロボットが発達・普及すると考えられています。また、ヒューマノイド型（ヒト型）ロボットが人気を博するとも見られています。

エンタメロボットの用途は、ペットロボットをはじめとする玩具ロボットが最大シェアを占めています。こうしたロボットのユーザは子どもが多いのですが、今後は高齢者の話し相手となるようなコンパニオンロボットの需要が大きくなると予想されています。

コンパニオンロボットの技術的基盤となるLLM搭載ロボット技術については、2025年9月にGoogle DeepMindがロボット開発プラットフォームGemini Robotics 1.5を発表しました。Google開発のLLMであるGeminiを搭載することで、自然言語の指示を理解できるロボット開発を可能とする同プラットフォームは、例えば「私の位置情報にもとづいて、ゴミを正しく分別できますか」といった指示の遂行を実現します。このプラットフォームは、家事を遂行すると同時に人間ユーザとの交流にも対応するコンパニオンロボットの開発を想定していると考えられます。

「不気味の谷」を超えられるか？ヒトに接近する世界のコンパニオンロボット

以下では、北米と欧州におけるコンパニオンロボット事例を紹介します。これらの地域ではヒューマノイド型ロボットの研究開発がさかんであり、「不気味の谷」の克服が長期的な課題になると考えられます。

アメリカ・ネバダ州ラスベガスに本社を置くRealbotixは、ヒューマノイド型ロボットを開発・提供する企業の急先鋒です。同社開発ロボットの特徴は、徹底したリアリティの追求です。そのヒト型頭部には可動ポイントが14か所以上あり、複雑な人間の表情を再現します。最高価格帯のフルボディモデルは、12万5,000USドル以上となっています。

Realbotix提供ロボットは人間ユーザの顔認識に加えて、ChatGPTやCluadeといった対話型生成AIに接続可能なので、自然言語による交流が可能です。想定用途としてはテーマパークにおけるパフォーマンス、企業窓口における接客などがありますが、今後大きな成長が見込まれるのは、家庭において個人ユーザが行う交流です。

アメリカ・カリフォルニア州パロアルトに本社のある1Xは、ヒューマノイド型ロボット「NEO」を開発・提供しています。同ロボットは二足歩行型であるものも、Realbotixのそれのように人間に寄せたデザインではなく、全体に丸みを帯びた姿をしています。表面は柔らかい布素材で覆われているため、衝突したとしても人間ユーザが怪我することはありません。

NEOは掃除などの家事を行うように設計されており、未知の作業についてはエキスパートモードを使うことで学習できます。人間ユーザとの会話も可能で、ジョークを言ったりしてコンパニオンロボットとしても機能します。2025年時点でNEOは、月額499USドルのサブスクリプションプランで利用するか、2万USドルを支払って購入でき、アメリカ限定で2026年から出荷されます。

スイス・ジュネーブ大学の研究チームが2024年5月に発表したロボット「Nadine」は、情動を持つように設計されています。具体的には、人間との会話に対して感情評価を行い、喜びなどの感情情報を抽出します。その感情情報と心理学における性格理論であるビッグファイブ理論を活用して、ロボットが持つべき感情が決定されます。

2025年2月、同研究チームは、Nadineと人間評価者80名による”不気味の谷”に伴う不快感に関する会話実験を行いました。その結果、ロボットと人間の会話において不快感を減らす要因は、ロボットが人間らしく話すことではなく、人間が興味を抱くような魅力的な会話をする能力であることを突き止めました。この成果は、ロボットに人間を模倣させても不気味の谷を克服できないことを示唆しています。

“カワイイ”を強調する日本のコンパニオンロボット

以下では、日本におけるコンパニオンロボット事例を紹介します。日本では、世界のそれとは対照的に、非ヒューマノイド型で人間ユーザに”カワイイ”といった感情を喚起させるロボットが開発されています。

株式会社MIXIが開発・提供する会話AIロボット「Romi（ロミィ）」は、しずくのような丸みを帯びたデザインのロボットです。このロボットは人間ユーザと会話することを目的として開発されましたが、物理的に離れた家族を見守ったり、子供向けプログラミング学習ツール「Romiシナリオエディター」として機能したりします。また、ChatGPTと連携する「アシスタントモード」も実装しています。

2025年7月には、新モデル「Romi（Lacatanモデル）」がリリースされました。4色のボディデザインが用意された同モデルには、Romiが見たものがわかる「視覚機能」、思い出を育む「長期記憶」、「自然なタイミングの会話・相づち」、「人間のような自然な声」が追加されました。

Panasonicが提供するペットロボット「NICOBO（ニコボ）」は、生成AI時代における「ロボットとは何か」という問いに対して、会話能力の高度化のような機能進化とは異なる答えを提示しています。このロボットは、豊橋技術科学大学所属の岡田美智男教授が提唱する「弱いロボット」というアイデアにもとづいて開発されました。このアイデアは、何かを遂行するためではなく、ただ愛される存在としてロボットを開発するというものです。

弱いロボットであるNICOBOは、人間と片言の会話しかできない言わば「永遠の2歳児」です。しかしながら、人間の顔や感情を認識でき、独自開発したエモーショナルエンジンにより機嫌が良くなったり悪くなったりします。

科学技術の振興を目的とした施設である日本科学未来館は2025年7月2日、「ヒューマン・ロボット・インタラクション 人と通じあうためのテクノロジー」をテーマにした常設展示をリニューアルしました。

リニューアルされた展示のひとつには、人と一緒に暮らすことを目指して開発されたパートナーロボット「Indy（インディ）」があります。人の意図をAIによって推定し、それに合わせた動作をするために、言葉だけでなく声の調子や人の動き、持ち物などのさまざまな情報を組み合わせて認識し、次に行うべき行動や発する言葉を判断します。このロボットには、LLMに類する技術が活用されていると考えられます。

以上のようにコンパニオンロボットは、LLMの進化に応じてより高度になっています。こうしたロボットは将来的に一般家庭に普及する可能性がありますが、人間ユーザのコンパニオンロボットに対する依存のような倫理的問題が生じるかもしれません。こうした問題への備えとして、生成AI時代にふさわしいロボット倫理を議論するのが望ましいでしょう。

Writer：吉本幸記