CGへの扉 Vol.73：生成AIの苦手を克服。世界観を維持し、演出可能なAIの台頭

Runway Gen-4 の登場

偶然性を排除し、演出のもとで生成する。生成AIの“限界”は、もはや過去の話かもしれません。2025年3月末に、動画生成AIとして他のAIと凌ぎを削っていたRunwayが一歩抜きん出た機能を引っさげてバージョンアップ版をリリースしました。

Introducing Runway Gen-4 | Runway

Runway Gen-1：2023年2月 Video-to-Videoの登場
Runway Gen-2：2023年3月 マルチモーダル動画生成AI、Text-to-Video機能の登場
Runway Gen-3：Alpha 2024年6月17日（発表）​高解像度に対応
Runway Gen-4：2025年3月31日リリース　一貫したキャラクターやオブジェクトを生成し、シーン間の整合性が向上

​RunwayのUnlimitedプランは、年間一括払いの場合は月額に換算すると$76、毎月払いの場合は月額$95です。Standardプランは、年間一括払いの場合は月額$12、毎月払いの場合は$15で毎月625クレジット（1秒あたり12クレジットを消費）が付与されます。

2022年頃から始まった生成AIブームは、画像、テキスト、音声、そして動画の分野へと急速に広がり、時に物議をかもしながらも今や表現活動のひとつの形態として多くの分野で活用され始めています。

動画生成AIは、長らく「静止画の延長にすぎない」「表面的な演出にすぎない」「不確定要素が多すぎ演出が効かない」「プロの現場での使用には耐えない」「実務レベルには至らない」と批判的に捉えられてきました。その背景には、生成AIが苦手としており解決できていなかったいくつかの課題があります。例えば、生成された映像の中のキャラクターやオブジェクトの一貫性を保つこと、映像の時間軸に沿った自然な変化を描写すること、そして複雑な演出や指示を理解し何度でも再現することなどです。これらはいずれも、これまでの生成AI、特に動画生成AIが不得意としていた部分です。

今回Runwayがリリースした最新の動画生成モデル「Gen-4」は、数ある動画生成AIの中で、時間的整合性と空間的一貫性を持つようになり、動画生成AIの印象や制限を越える大きな進化を遂げました。ここではRunway Gen-4のクリエイティブ領域にもたらすインパクトについて考えていきます。

特徴１ 一貫性のあるキャラクターと背景の生成：同じキャラクターや背景が、異なるシーンでも統一感を保って再現されます。キャラクターの顔立ち・衣服・所作の一貫性が保持され、人物の表情、髪型、服装が、数秒にわたるシーン全体でも違和感なく保たれます。シーンの指定で照明条件や、天候、日照の時間帯、季節などが演出できます。

特徴２ 多様なカメラアングルと情景の生成：一般的な映像におけるカメラの動きや視点の移動にも対応し、静止画をつなぎ合わせたような感覚はなく、実写カメラのように滑らかに遷移することで、ごく自然な映像を生成しています。ドリーと呼ばれる被写体に近付いたり遠ざかったりする映像、パン、空撮、スローモーションなども指定可能です。

特徴３ 高品質でダイナミックな動画生成​：リアルな動きや豊かな表情を持つキャラクターの動画を生成し、高解像度でプロフェッショナルレベルの映像制作が可能です。

特徴４ 物理法則のシミュレーション：重力や衝突、自然物の動きなど、現実世界の物理法則を再現した映像を生成できます。風になびく布や、水しぶきに反応する光の反射など、物理的現象の再現性もだいぶ向上しました。生成視覚効果（GVFX:Generative Visual Effects）と呼ばれる​視覚的な演出を加えることが可能に。

これまでの多くのAI動画生成モデルは、1フレームごとの静止画を生成してそれを単につなぎ合わせるという手法を取っており、
キャラクターの髪型がフレームごとに変わったり、突然シーンのカメラアングルが切り替わったりといった通常の映像制作ではありえない問題が頻発していました。こうした連続性の欠如は、映像作品としての完成度を著しく損なう要因となっていました。特に人間や自然物を扱った場合、人間はその違和感を強く感じる傾向にあります。

さらに、Gen-4は「1枚の画像を基に、複数のアングル・時間軸の動きある映像を作る」ことも可能となっており、実写や、ロケ撮影では無理だった映像制作の限界を曖昧にする存在になりつつあります。

「求める演出 = プロンプトの駆使」へ

テキスト情報から動画を生成する、いわゆる「text-to-video」の技術は、Runway Gen-4によって新たな状況に突入しました。これまでのモデルは、「猫がジャンプする」「女性が歩く」といった単純な表現に限定されていましたが、Gen-4では複雑な指示にも、演出家や映像監督の想像どおりに応えることが可能になったのです。

　「夜の東京下町の路地を、赤いコートの女性が後ろを振り返りながら歩く」
　「静かな図書館の中で、窓から差し込む夕陽が書籍ページを照らす」

こうした「演出的」な表現に応じるプロンプトの柔軟性は、映像作家、広告クリエイター、デザイナーにとって映像制作の試行錯誤の環境を変えるという意味を持ちます。

特にプロンプト内での「演出指示」が有効です。例えば「カメラ位置は斜め下からのローアングル」「スローモーションで3秒間」「最後に被写体が視線をカメラに向ける」といった情報が反映されやすくなっている点が、従来モデルとの決定的な差異です。

Runwayの公式ガイドによると、シンプルなプロンプトから試行錯誤を始めるのがポイントです。最初は基本的な動作やシーンを記述し、徐々に詳細な背景描写、状況の説明を追加していきます。人間対人間の演出でも同様ですが、迷いを生み出すような複雑な指示を避けるのがポイントです。

また具体的な動作やカメラワークを記述します。生成AIに任せるのではなく、演出、意図を伝えるのです。キャラクターの動きも同様に明確に指示します。この際、あまり専門的すぎるカメラやレンズの指定に向かない場合があります。スタイルや雰囲気を明示することで映像のスタイル（例：ヨーロッパの映画風、アニメ風）を指定をします。人間でも迷うような矛盾する指示を避けたり「すばらしい動き」などの曖昧な指示を避けるのもポイントです。

以下は、Runway Gen-4で作成された動画デモの事例です。

SkyReels

​SkyReelsは、シンガポールのAI企業Kunlun Techが開発した、映画制作の全工程をAIで自動化する革新的なプラットフォームです。​無料で25ポイントのクレジットから利用開始可能です。月額28ドルで、4,200クレジットが利用できます（1秒の動画生成に10クレジットを消費）。

脚本作成からストーリーボード、キャラクター設計、音声合成、映像生成、編集までを一括で行えるオールインワンの映像制作ソリューションとして、プロの映像制作者から個人クリエイターまで幅広く利用されはじめています。本来ならば多様な専門家がチームを組んで取り組む映像制作の各工程をそれぞれAIで自動化し、クリエイターの創造力を最大限に引き出すプラットフォームです。​専門的な知識や高価な機材がなくても、制作できるのが特徴で、これまでの生成AIのようにプロンプトで指示し、偶然に頼った映像を即席で作るのではなく、演出に合ったキャラクターを作ったり、どんなセリフを喋らせるかといった、これまでどおり定番の映像制作の手順に沿ってAIが活用されているのがポイントです。

1. AI脚本生成（SkyScript）

ユーザーが入力したアイデアやプロンプトに基づき、構造化された脚本を自動生成します。​Kunlun TechのLLM「SkyScript」は、物語の起承転結や感情の流れを考慮し、魅力的な物語の展開を構築します。 ​

ハリウッド映画や人気の配信映画のほとんどは、何種類かの定番のストーリー展開に沿ったものであり、機械学習の素材があるAIが得意な分野でもあります。ただし、観たこともないようなストーリー展開は難しく、脚本のきっかけづくりや、すでにある脚本を洗練させる用途に活用するのも良いかもしれません。

2. ストーリーボード作成（StoryboardGen）

生成された脚本をもとに、シーンごとの簡易的なビジュアルを自動で作成します。​カメラアングルやキャラクターの配置、動作なども指定可能で、映像制作の設計図として活用できます。 ​これまで専門家や監督が時間をかけて作っていたストーリーボードを素早く、一定のクオリティで何度でも作り直せることで、制作や演出の意図を映像制作のメンバーに伝える役目を果たすことができます。

3. キャラクター設計と一貫性の維持

キャラクターの外見や衣装、動作、表情をカスタマイズでき、複数のシーンやエピソードにわたって一貫性を保つことが可能です。​例えば、衣装や背景など、いくつかの要素を指定して、映像全体の世界観を維持することができます。 ​

4. 音声合成とリップシンク（ActorShow）

セリフを記述したテキスト情報から自然な音声を生成し、キャラクターの口の動きと同期させることができます。​ユーザーは内蔵の音声ライブラリから選択するか、自分の声や、プロジェクトで依頼し許諾を得た声優さんのサンプル音声をアップロードし、そこから生成される合成音声を利用することができます（現時点では日本語未対応）。

5. 映像生成と編集（WorldEngine）

ストーリーボードやキャラクター設定をもとに、一度に最大3分間の高品質な映像（1080p、60fps）を自動生成します。​物理シミュレーションや照明効果、特殊効果も取り入れ、リアルな映像表現が生み出せます。 ​ここで作成されたカットをつなぎ、さらに長尺の映像を制作することは可能です。

6. 音楽と効果音の自動生成

映像の内容や雰囲気に合わせて、BGMや効果音を自動で生成・挿入することができます。予算の潤沢な超一流の映画であれば、スターウォーズで有名な音響スタジオ、スカイウォーカーサウンドで効果音の収録などができますが、それには高額なスタジオ利用料と、さらに専門家への支払いが生じます。SkyReelsでは、専門家でなくとも映像と音の統一感のある音楽や効果音によって、視聴者の映像への没入感を向上させられるのです。

こちらは主にSkyReels等のツールを活用して作られた映像です。まだ若干の生成AI特有の不自然さはありますが、ちょっとした物語の映像制作であれば、便利に活用できることが見て取れます。

SkyReels公式サイト

映像制作全体の変化がやってくる

RunwayやSkyReelsといった映像制作の手順をそのまま生かした生成映像AIの登場で、映像制作全体の考え方が変わってきています。

◆ プリビズ・モック制作の自動化

予算の大きな映画制作やCM映像制作の場合、プリビズ(Pre-Visualization) と呼ばれる、完成映像の確認用に事前に簡易的な映像を作る作業を行います。従来はプリビズ専門家が数日～数週間を要していた「動く絵コンテ」や「カメラテスト」映像を、Runway Gen-4は数分～数時間で可視化可能です。企画段階のコストが激減し、試行錯誤の回数が増やせ、予算に直結します。

◆ ローコストプロモーション映像の制作

プロのスタジオや俳優を用意せずに、広告やMVの世界観を表現できるようになり、中小規模のクライアントでもリッチなビジュアルを獲得可能になりました。また本番の撮影前にイメージを検討したり制作イメージを誤解なく合わせるためにも有効です。

◆ YouTube・TikTokなどSNS動画の高速生成

短尺の映像クリップを繰り返し生成・テスト・改善できるため、SNSを活用したマーケティング動画の制作が高速化されます。

一方、技術的限界もまだまだあります。

1. 長尺映像の難しさ：30秒を超える映像では、キャラクターの変形や動作の繰り返しが発生することもあり、物語を表現する映像としての完成度はまだ検討の余地があります。
2. 複数被写体の取り扱い：2人以上の人物が登場する場面で、位置関係や視線の自然さにバラつきが残ります。
3. 学習データの著作権問題：現状、生成AIの元となるモデルがどのような映像で学習されたかは一般には明かされておらず、既存作品との類似性が発覚した際の対応が問われます。この点を明確にクリアしているAdobeなどのソリューションを選択するという方法もあります。
4. フェイク映像のリスク：精度が高くなるほど、偽情報・捏造の社会的リスクも高まります。

色々な心配事はありますが、生成AIによる映像制作は圧倒的なスピードで進化しつつあります。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」。『海底二万里』や『八十日間世界一周』などの作品で知られるフランスのSF作家ジュール・ヴェルヌが残した言葉が、まさに現実になっているとしか言いようがありません。

本連載の今後の予定：「CGへの扉」では、単なるAIの話題とは少し異なり、CG/VFX, アートの文脈から話題を切り取り紹介していきます。映像制作の現場におけるAI活用や、AIで価値が高まった先進的なツール、これからの可能性を感じさせるような話題、テクノロジーの話題にご期待ください。何か取り上げて欲しいテーマやご希望などがございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。