大手企業がAI面接官を試験導入：月刊エンタメAIニュース vol.58

2024.10.21先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

オープンソースのマルチモーダルモデル

アレン人工知能研究所（AI2）は9月25日、オープンソースのマルチモーダルモデル「Molmo」（Multimodal Open Language Model）を発表しました。

GPT-4やClaude 3.5といった商業用のAIモデルは、モデルの重みや学習データが非公開のプロプライエタリモデルがほとんどです。一方、Molmoはモデルの重みやデータセット、コードが全て公開されており、誰でも利用できる形で提供されています。

最大の特徴は、合成データに頼らずに完全に人間の手で作成されたデータセット「PixMo」を使用している点です。従来のデータセットはテキストで画像の説明を書く手法が一般的でしたが、PixMoは人間のアノテーターが画像を詳細に説明した音声データから作成されています。これにより画像に関する詳細な説明を効率的に収集でき、AIモデルの性能向上につながっています。

Molmoのアーキテクチャには、視覚エンコーダーと大規模言語モデル（LLM）を組み合わせたシンプルな構造が採用されています。OpenAIのマルチモーダル基盤「CLIP」とオープンソースLLMの「Qwen2 72B」を活用することで、画像を詳細に解釈しながら文章を生成する能力を実現しています。また、Molmoの学習には標準的な学術データセットだけでなく、独自に収集した質問応答データや、画像上の特定のピクセルを指し示すデータ（PixMo-Points）が取り入れられており、画像に関する高度な質問に正確に応答できます。

11種類のアカデミックベンチマークで評価した結果、GPT-4やClaude 3.5といったプロプライエタリなモデルと同等、もしくはそれ以上のスコアを記録したということです。なかでもMolmoの最上位モデルである「Molmo-72B」は、学術評価で最高スコアを達成しただけでなく、ユーザー評価でも高い支持を得ています。

開発チームは、今後も追加のデータセットやモデルの公開を予定しているとのことです。プロプライエタリモデルに依存しない新たな選択肢が提供されることで、科学探究や技術開発のさらなる加速が期待できます。

論文：Molmo and PixMo: Open Weights and Open Data for State-of-the-Art Multimodal Models

画像から瞬時に深度マップを生成

アップルは10月2日、1枚の画像から瞬時に高精度の深度マップを生成できる新たなモデル「Depth Pro」を発表しました。

深度マップとは、画像の各ピクセルがどのくらいの距離にあるかを推定したデータで、3D画像生成や視覚補助技術、画像編集など幅広い分野で活用されます。従来の技術はカメラの焦点距離といった特定の情報に依存していましたが、Depth Proはどんな画像からでも迅速かつ正確に奥行き情報を推定できるということです。

特筆すべきは、Depth Proによる深度推定の速度と精度です。一般に普及しているGPUを使って2.25メガピクセルという高解像度の深度マップを生成するのにかかった時間は、わずか0.3秒だったとのこと。リアルタイムでの画像処理に適しており、特に画像生成や拡張現実（AR）への応用が期待されます。

Depth Proには「ゼロショット推定」という技術が採用されています。これにより画像ごとの学習や調整、カメラの設定情報（焦点距離など）なしで正確な奥行き情報を出力できます。また、髪の毛や動物の毛皮、植物の葉のような非常に細かいディテールも正確に再現できることから、3D空間内でのオブジェクトの配置や形状を忠実に再現できるということです。例えば、ユーザーが撮影した写真をもとに、「63mm離れた位置からの視点で新たな画像を生成する」といった使い方ができます。

さらに焦点距離の自動推定にも対応しており、従来の技術では難しかった不正確なカメラ設定での深度推定も高精度で実行できるということです。視覚効果や画像編集の未来を切り開く技術として、今後の発展がますます期待されます。

論文：Depth Pro: Sharp Monocular Metric Depth in Less Than a Second

メタも独自の動画生成AIを発表

メタは10月4日、テキストから動画の生成や編集ができる基盤モデル「Movie Gen」を発表しました。シンプルな文章を入力するだけで最大16秒間の動画を生成できます。

Movie Genには30億パラメータのトランスフォーマーモデルが使われており、膨大な量の画像や映像、音声からなる大規模なデータセットを学習しています。これにより人物や物体の動き、背景の変化、光の加減といった詳細な要素もリアルに再現できるということです。

Movie Genは動画生成だけでなく、テキストによる映像編集も可能です。「ランタンの底に飾りを追加する」や「背景を都市公園に変更する」といった指示を与えるだけで、既存の映像を正確に編集できます。また、パーソナライゼーション機能も備わっています。例えば、ユーザーの顔写真を入力すれば、自分に似た人物を主役にした動画を生成できるというわけです。

さらに映像に合わせたサウンドエフェクトや音楽の生成も可能です。降りしきる雨や響き渡る雷鳴の音はもちろん、映画の雰囲気に合ったBGMも自動で生成してくれます。これにより視覚効果と音響効果をシームレスに組み合わせた没入感のある映像を簡単に作成できるようになります。

メタによると、Movie Genの性能はRunwayの「Gen-3」やOpenAIの「Sora」を凌駕しているとのことで、なかでもパーソナライゼーションは他社のモデルにはない独自の機能だとしています。また、今後も新たな機能を追加していく予定だということです。この技術は映画や広告の制作過程を大きく変える可能性を秘めており、今後の展開が注目されます。

論文：Movie Gen: A Cast of Media Foundation Models

キリンホールディングスがAI面接官を試験導入

VARIETASは10月16日、戦略的な人事業務をサポートするために同社が開発した「AI面接官」を、キリンホールディングスにトライアル導入したことを発表しました。

「AI面接官」は、エントリーシートの読み込みから一次面接までを担当し、社会人としての基礎力を構成する要素を多角的に評価してくれます。これにより、人間の面接官と比べて約6倍の視点から候補者のポテンシャルや実力を正確に評価でき、面接慣れしていない候補者や特定の項目に秀でている候補者を見逃すことなく初期選考を実行できるとのことです。AI面接官の評価をもとに採用担当者が最終的な通過者を確定して、二次選考以降の採用活動につなげていく仕組みです。

AI面接官を導入した背景について、多様性が重視される現代において従来の書類選考や一次面接のあり方を見直すべき時が来ていると、VARIETASは説明しています。AI面接官はヒューマンリソースを逼迫することなく書類選考から一次面接までの工程を処理できるので、人手が足りないという理由から書類審査で落とさざるを得ないような状況を改善できるということです。

Writer：Ritsuko Kawai