ファッション業界のクリエイティブ業務で活用される生成AIまとめ

2010年代における第３次AIブームでは、数理的業務が多い金融業界などからAI導入が始まり、その後エンタメやファッションの業界にも波及しました。しかしながら、ファッション業界におけるAI活用は、自動採寸や真贋鑑定のような非クリエイティブな業務に限定される傾向がありました。こうしたなか2020年代になって生成AIが台頭すると、服飾デザインのようなクリエイティブな業務においてAI導入が始まりました。そこで本稿では、ファッション業界における生成AI活用事例を紹介します。

参考記事：AI生成ファッションモデルから真贋鑑定まで。国内外のファッション業界で活躍するAIまとめ

アーティスト自身の作品から学習するAIも誕生

以上のテーマにおける日本での生成AI活用事例には、株式会社OpenFashionが提供するMaison AIがあります。このAIはテキスト生成AIと画像生成AIを統合実装することで、アパレル企業の業務全般を支援するというコンセプトにしたがって開発されました。同AIの活用方法を解説したブログ記事では、業務自動化やメール等のカスタマイズといったテキスト生成AIを活用する方法が紹介されています。

Maison AI活用解説ブログ記事には、画像生成AIを使って広告画像を制作する事例もあります。その事例では、まず広告画像を生成するAIエージェントの設定を行っています。AIエージェントとは特定の役割を演じるように設定されたAIを意味し、こうした設定を行うことでユーザの要望に沿う出力が得られるようになります。そして、このAIエージェントに広告画像のコンセプトを伝えると、プロンプトを生成したうえで画像を出力するのです。それゆえ、ユーザはプロンプトエンジニアリングの知識なしで画像を生成できます。

パーフェクト株式会社は、ユーザの手元をトラッキングしてバーチャルな手元を生成するAgileHand™ハンドトラッキング技術を活用したサービスを提供しています。この技術は、AIニュートラルネットワークを活用してユーザの手元を高精度に採寸後、動作や肌色を忠実に再現したバーチャルな手元を生成するというものです。この技術を活用して、2023年10月には指輪やブレスレットなどの複数のアクセサリーをバーチャルに試着できるサービスを発表しました。

パーフェクトは顔を分析するさまざまなサービス「フェイスAI」も提供しており、そのなかには肌の状態を分析するフェイスAI肌分析、最適なフィット感のバーチャルなメガネを生成するAIメガネなどがあります。

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所所属のアレクシー・アンドレ（Alexis André）研究員は、アーティストの既存作品からその特徴を抽出して創作活動を支援するAIシステム「Tomonami ™」を開発しました。このシステムは抽出した特徴を再現するのではなく、その特徴をパラメータ化してアーティスト自身が新たな特徴を創出することを可能としています。2024年1月には、友禅作家の四ツ井健氏とコラボレーションして新たな友禅作品を制作するシステム「Tomonami for Ken Yotsui」を開発しました。

ファッションフォトをAIが生成

海外事例としては、例えばThe New Blackが提供する「AI Design」があります。このサービスは、「Man」「Wowan」といった性別、「衣服」「バッグ」などのファッションカテゴリーを属性として設定し、さらにプロンプトで詳細な指示を入力すると、入力内容に沿ったファッションアイテムを生成するというものです。画像による入力も可能で、プロンプトによって画像の一部を削除したり、差し替えたりできます。

The New Blackは、アパレル企業のブランディングに使う画像を生成する「Clothing Brand Generator」も提供しています。このサービスでは、ブランドのテーマをプロンプト入力すると、その内容に沿ったムードボードが生成されます。

Refabricが提供する服飾デザイン支援AI「Refabric Basic」は、さまざまなプロンプト入力に対応しています。例えば画像をアップロード後、デザインコンセプトをプロンプト入力にすると、そのコンセプトに沿って画像を加工します。さらにデザインパターンをアップロードしてプロンプト入力にすると、デザインパターンを活用しつつ入力内容も反映したファッションアイテムが出力されます。「プロンプトアシスタント」機能を使えば、AIが入力プロンプトを最適化してくれます。

Botikaは、ファッションフォトを生成するサービスを提供しています。具体的には任意の画像をアップロードすると、ファッションフォト風に加工したり、AI生成ファッションモデルとユーザがアップロードした衣服の画像を合成したりします。さらには、アップロードした画像にファッションフォト風の背景を合成する機能もあります。

ユーザが用意した画像をファッションフォト風に変換するBotikaのサービスは、ユーザ個人がネットショップを立ち上げる際に非常に役立ちます。こうした利点を生かすために同社は2023年12月、ネットショップ開設サービスのShopifyとの技術提携を発表しました。

現実のファッションショーを超えるかもしれないAIファッションウィーク

以上のようにファッション業界におけるさまざまな生成AI活用事例があるなか、そうした活用の可能性を追求したイベントとして、2023年4月20日から21日にアメリカ・ニューヨークで開催されたAIファッションウィークがあります。

以上のイベントを取材したオンラインELLE日本版が2023年5月に公開した記事によると、同イベントは2023年2月に「モンクレール ジーニアス」のキャンペーンビジュアルをAIで生成して注目を集めたシリル・フォワレ（Cyril Foiret）氏の呼びかけで開催されました。同イベントでは生成AIによって生成されたファッションデザイン画像に関するコンペティションが行われ、世界中から作品が集まりました。作品を提出するデザイナーの応募資格はファッション業界関係者に限定されなかったため、54歳の現役弁護士のような応募者もいました。

実際のコンペティションは、ニューヨークのスプリング・スタジオに設置された24台のスクリーンに、350以上の募集作品のなかから選ばれた約50の作品を表示して行いました。これらに対して一般ゲストが公式サイトから投票してトップ10を選抜した後、ファッション業界のエキスパートから構成された審査員による審査によって3名の受賞者が選ばれました。

生成AIには主としてMidjourneyやStable Diffusionのような代表的なものが使われたのですが、背景が砂漠や熱帯雨林など物理的なファッションショーでは実現困難な画像もありました。その一方で、白人のスレンダーなモデルの画像に偏った作品が少なくなかったといった課題もありました。

なお、AIファッションウィークはすでに2回目がミラノとニューヨークで開催され、公式サイトにはトップ20の作品が陳列されています。今後の展開として、動画作品の募集が始まることでしょう。

ファッション業界のクリエイティブ業務における生成AI活用には、多様なデザインを短時間で制作できるといった業務効率化が期待できます。その一方で、フォトグラファーやモデルの雇用を奪うかもしれないというネガティブな影響も懸念されます。しかしながら、さまざまな試行錯誤を経たのちに、生成AIはファッション業界に定着して総体的にはポジティブな影響を与えるのではないでしょうか。

Writer：吉本幸記、Image by ShutterStock