文章と画像に続いて音楽も誰でも生成可能に：月刊エンタメAIニュース vol.45

2023.9.25音楽

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

誰でも気軽に作曲できるサウンド生成モデル

Stability AIは9月13日、音楽とサウンド生成のための初のAIモデル「Stable Audio」を発表しました。Webブラウザから誰でもオーディオファイルを生成できる世界初のサービスで、45秒までのトラックを生成してダウンロードできる基本無料版と、商用に90秒までのトラックを利用できるサブスクリプションモデルのPro版があります。

同社の画像生成AI「Stable Diffusion」と同様に、ユーザーが入力するテキストプロンプトに基づいてオーディオトラックが生成される仕組みで、生成前にトラックの長さもあらかじめ指定できます。

例えば、インターフェイスに「Post-Rock, Guitars, Drum Kit, Bass, Strings, Euphoric, Up-Lifting, Moody, Flowing, Raw, Epic, Sentimental, 125 BPM」と入力して、トラックの長さを95秒に指定すると、同社が公開しているサンプルのようなオーディオトラックが生成されます。

Stability AIのCEO Emad Mostaque氏は、「唯一の独立したオープンでマルチモーダルな生成AIの会社として、音楽クリエイターをサポートする製品を開発するために私たちの専門知識を活用できることを嬉しく思います。私たちの願いは、Stable Audioが音楽愛好家やクリエイティブな専門家にAIの助けを借りて新しいコンテンツを生み出す力を与えることであり、それが無限のイノベーションを生み出すことを期待しています」とコメントしています。

人間の悩みを聞いてくれる仏教対話AI

京都大学は9月12日、株式会社テラバースの研究開発グループと共同開発した仏教対話AI「親鸞ボット」および「世親ボット」を発表しました。「ChatGPT 4」と宗教を掛け合わせた新型チャットボットで、宗教史を代表する仏教聖人ボットとのテキスト対話のみならず、AR（拡張現実）による視覚や聴覚を用いたマルチモーダルなコミュニケーションが可能ということです。

親鸞ボットと世親ボットは、日本最大の仏教宗派である浄土真宗の開祖親鸞と、大乗仏教の二大哲学の一つである「唯識」を大成した菩薩の世親を再現したAIモデル。現存する仏教聖典を機械学習しており、人々のさまざまな悩みに宗教的観点から回答してくれます。

京都大学は過去にも「ブッダボット」と「ブッダボットプラス」を発表しており、今回新たに親鸞ボットと世親ボットを世に送り出したことで、仏教の教えを生み出した「ブッダ」、その教えをさらに哲学的に分析した「菩薩」、そして、教えをアジア各地で伝えた「高僧」という、仏教の主要なタイプの伝道者の対話ボットが揃いました。

人と社会の未来研究院准教授の熊谷誠慈氏によると、「今回の親鸞ボットおよび世親ボットの開発により、仏教対話AIの多様化に成功しました。今後、伝統知とテクノロジーを融合した伝統知テック開発をさらに加速し、より豊かなデジタル文化を提供して参りたい所存です」とのこと。

西暦3000年味のコーラをAIと共同開発

コカ・コーラは9月12日、AIを使って開発した西暦3000年の味がコンセプトの新商品「Coca-Cola Y3000」と、シュガーフリーの「Coca‑Cola Y3000 Zero Sugar」を発表しました。

同社のグローバル戦略を担うシニアディレクターのOana Vlad氏によると、西暦3000年にもコカ・コーラが今日と変わらず愛され続けるよう願いが込められたコンセプトで、シルバーをベースにバイオレット、マゼンタ、シアンといった鮮やかな色調で描かれた本体デザインは、未来の地球における人間同士のつながりを表現しているということです。

「Coca-Cola Y3000」は北米で、「Coca‑Cola Y3000 Zero Sugar」は北米、中国、欧州、アフリカで発売予定。また、ファッションブランド「AMBUSH」とのコラボレーションによるアパレルやアクセサリーが、「Y3000 Capsule Collection」として限定発売される予定です。

生成AIを使った自社製品による著作権侵害を補償

マイクロソフトは9月7日、「GitHub Copilot」や「Microsoft 365 Copilot」といった生成AIを活用した自社製品のユーザーが、万が一著作権侵害で訴えられた場合に賠償金等を肩代わりする旨を明記した新たな公約「Copilot Copyright Commitment」を発表しました。

この公約は、既存の「AI Customer Commitment」に基づいて、マイクロソフトの知的財産権に関する補償サポートを法人向けCopilotサービスにも拡大する内容で、ユーザーが製品に組み込まれたガードレールとコンテンツフィルターを使用していることを条件に、訴訟の判決または和解の条件によって課せられた金額を同社が補償するというものです。

「Copilot Copyright Commitment」の発表について、約20年にわたって自社製品に対する特許権侵害のクレームから顧客を守ってきた流れに沿ったものであると、マイクロソフトは表明しています。一方で、クリエイターが著作権を保持し、創作物から健全な収益を得られるよう努めることも極めて重要であるとして、Copilotが著作権侵害コンテンツを出力する可能性を低減するためのフィルターを組み込んでいます。今回の公約は、あらゆる人が著作権に配慮するためのインセンティブを生み出すということです。