思考の流れをブラウジングする：月刊エンタメAIニュース vol.67

2025.7.22先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

思考の速度でブラウジング

Perplexityは7月9日、AIエージェントを搭載した次世代Webブラウザ「Comet」を発表しました。

検索エンジン「Perplexity」の技術と会話型AIを融合させたCometは、ユーザーの問いに応じて文脈を理解し、調査や要約、タスクの実行までを一貫して支援する“思考に寄り添うブラウジング体験”を提供してくれます。

最大の特徴は、AIアシスタント「Comet Assistant」が常駐し、複数のタブを横断しながら自然言語での指示に応じて情報の要約やミーティングの予約、メール送信、オンラインショッピングといった多様なタスクを実行できる点です。

従来の検索中心のブラウジング体験を再構築し、思考の流れそのものをナビゲートする「第二の脳」としての役割を担うツールを目指しているとのこと。なお、Chromiumベースで設計されていることから、ChromeやEdgeと同様に拡張機能や設定、ブックマークのスムーズな引き継ぎも可能です。

Cometは現在、月額200ドルの「Perplexity Max」ユーザーと、ウェイティングリストに登録済みの一部ユーザーを対象に限定公開されています。夏以降には一般提供も予定しているとのことです。

Perplexityの共同創業者兼CEOであるAravind Srinivas氏は、「Cometはただのブラウザではなく、ユーザーの思考を拡張する存在」とコメントしています。また、アジア代表の森田俊氏も、「疑問や思考の流れをそのまま形にする新しいブラウザ体験」と述べており、日本市場でのAIとの自然な共存のあり方を提示しています。今後はモバイル版への展開も視野に入れており、さらに多くのユーザーがこの革新的な体験を享受できる環境が整っていく見通しだということです。

AIが共に働く新たな開発環境

Amazon Web Services（AWS）は7月14日、AIと一緒にアプリ開発ができる新たなツール「Kiro」を発表しました。

Kiroは、アプリのアイデアを形にする初期段階から、完成品になるまでのすべての工程を支援するための開発環境です。仕様書の作成から設計、テストまでをAIがサポートすることで開発途中における迷いが減り、効率的なアプリ開発が可能になります。

Kiroには2つの機能が備わっており、開発者の作業ミスを減らすとともに、安心してコードを書き進められるように設計されています。1つ目の「スペック」は、作りたいアプリの機能を伝えるだけで、必要な要件や設計図を自動で作ってくれる機能です。2つ目の「フック」は、ファイルの保存や変更に応じてテストや文書の内容を自動で更新してくれます。

さらに、開発ツールの「VS Code」とも互換性があるので、現状の開発環境をそのまま引き継ぐことも可能です。AWSによると、Kiroは単なるコード生成ツールではなく、チームでの共同作業や知識の共有までを支援する相棒のような存在となることを目指しているとのこと。今後もより多くの機能を追加するとともに、ソフトウェア開発の課題を根本から解決していきたいとしています。

AIが社外取締役に内定

三谷産業は7月3日、人間の姿をしたAI「北斗泰山」を、2026年6月に設置予定の「AI社外取締役」の候補者に内定したと発表しました。

北斗泰山は、バーチャルヒューマン開発企業Aww Inc.によって生み出されたAIです。東洋思想に関する知識をもち、孫子をはじめとする古典哲学や禅思想の視点から企業経営にアドバイスしてくれます。東洋思想に基づいた洞察を提供する存在として、将来的に取締役会や経営会議に参加する予定だということです。

AIが企業の意思決定に関わるのは国内初の試みであり、世界でも極めて珍しい事例です。人間ではないので法的な取締役には該当しませんが、AIと人間が共に経営を担う新たな可能性を模索する試みとして注目されています。

これまで三谷産業は、社員へのG検定受験支援やAIワークショップの開催などを通じて、AIの利活用を進めてきました。今回の取り組みは、そうした背景の延長線上にあり、生成AIの進化によって企業内の意思決定支援においてAIが実用段階に入ってきたことを示しています。

代表取締役社長の三谷忠照氏は、「一見すると荒唐無稽な企画のように思えることは社長として自覚していますし、初期の構想段階から企画に参加してきた私自身にとっても、いまだ荒唐無稽な企画であるとの印象は拭いきれておりません。当社が誤解や好奇の目に晒されるおそれも感じておりますが、それを上回る新たな価値が創出できることを大いに期待しています」と述べ、今後のアップデートにも意欲を示しています。

AIで漫画家を支える会社

Visual Bankは7月1日、漫画家の創作活動をAIで支援する新会社「THE PEN」の設立を発表しました。共同設立者には、株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏や株式会社THE GUILD代表の深津貴之氏が名を連ねており、代表取締役は永井真之氏が務めます。

こうした背景を踏まえ、THE PENは「信頼できる高品質なAIツール」で漫画家の創作を支援し、「もっと描きたい！」という思いに応えることを目指しています。筆のように自然に寄り添う道具として、AIと漫画家の共創を実現することで、日本のコンテンツ文化のさらなる発展に貢献していくとしています。

国産の音楽生成AI

Amadeus Codeは6月4日、富士通研究所と共同開発した音楽生成AI「FUJIYAMA AI SOUND」を発表しました。これを記念して7月1日、東京・池袋のharevutaiで発表イベントが開催されました。会場ではトップクリエイターによるライブパフォーマンスや、開発者とのトークセッション、AIのデモンストレーションを通して次世代の音楽制作体験が披露されました。

FUJIYAMA AI SOUNDは、音楽理論や数理最適化などの高度な技術を融合したAIモデルで、ユーザー専用の30秒間の音声ファイルを自動生成します。このファイルは唯一無二で、商用利用においても著作権上の問題がない点が特徴です。ループ素材として自由に加工できることから、音楽や動画、ゲーム制作など幅広い用途に活用できます。

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このサービスは、音楽配信プラットフォーム「Evoke Music」上で7月1日から提供が始まり、音声ファイルは1曲1ダウンロード制で販売されています。なお、購入者に著作権が譲渡されることから、完全オリジナルの作品として利用できます。今後はリアルタイム生成にも対応予定で、世界中のクリエイターに新たな創作の可能性を届けていくとしています。

Writer：Ritsuko Kawai