AIが隣にいる未来：月刊エンタメAIニュース vol.66

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

日本政府、ガバメントAI構想を発表

日本政府は6月13日、行政におけるAIの本格活用を見据えた新たな取り組みとして、「ガバメントAI」の構想を発表しました。生成AIやエージェント技術が急速に発展するなかで、AIの活用を前提とした政策立案や行政運営への転換が求められるという認識のもと、この構想は行政分野におけるAI利活用の基盤整備を国家的な課題として明示しています。

ガバメントAIとは、国や地方自治体が共通して利用できるAI基盤の仮称です。行政職員が日常的に使う対話型AIツールや業務補助ツールなどの整備を想定しています。これには行政文書の作成や住民対応、政策立案の補助といった多様な業務に対応できる機能が盛り込まれる予定です。すでに政府内ではAI利活用のユースケースが数多く検討されており、実証環境の整備と並行して、制度面や技術面における基盤の構築が進められています。

特に注目されるのは、地方自治体に対するAI支援体制の強化です。政府の計画では、自治体ごとに異なる業務ニーズに対応できて、小規模な自治体でも導入しやすい共通のサービスの構築を目指すとしています。例えば、住民の問い合わせ対応を支援するプロンプトや、庁内文書の起案支援アプリなどをクラウド経由で提供できるような環境です。これにより、行政の質と効率を両立させる「自治体のスマート化」を進めていくということです。

このほか、この構想はAIの導入がもたらす倫理的な問題や法的な課題への対応も重視しています。政府は今後、AIに関する信頼性評価の指針策定や透明性の高い運用ルールの確立を進めるとともに、民間とも連携しながら公共分野におけるAI利活用のベストプラクティスを蓄積していく方針です。こうした取り組みを通して、ガバメントAIは行政の高度化と国民サービスの質の向上を同時に実現する鍵となることが期待されています。

画面を共有してAIがサポート

マイクロソフトは6月12日、ユーザーと同じ画面を見ながらAIがリアルタイムで作業をサポートしてくれるWindows向けの新機能「Copilot Vision with Highlights」を発表しました。AIアシスタントの「Copilot」を、日常のあらゆる場面でユーザーを支える“相棒”へと進化させるための重要な一歩だということです。

Copilot Visionは、ユーザーが共有したアプリやブラウザの内容をAIが視認し、それに基づいたアドバイスや補助をリアルタイムで提供してくれます。作業に行き詰まったとき、情報の意味を知りたいとき、あるいは何かに困っているとき、まるで“もう1つの目”のように寄り添って瞬時に洞察を与えてくれるということです。ネット検索や資料作成、旅行の準備など、日常のあらゆるシーンで活用できます。

特筆すべきは、Copilot Visionが複数のアプリを同時に把握して文脈をつないだサポートを実行できる点です。例えば、画像検索ブラウザとドキュメントを共有することで、執筆中の文章に最適な画像をAIに探してもらうような使い方ができます。さらに「Highlights」機能を利用すれば、アプリの使い方を尋ねた際に、どこをクリックすればいいかを視覚的に示してくれます。

Copilot Vision with Highlightsは現在、米国のユーザーのみを対象に提供されています。今後、その他の国や地域でも順次提供していく予定だということです。Deep Researchやファイル検索機能も統合され、Copilotの実用性は日々向上しています。マイクロソフトは、今後もユーザーのフィードバックを基に機能の拡張を進めていくとしています。日常のあらゆる場面で「AIが隣にいる」未来が一層現実味を帯びてきました。

AI学習用の画像を法人向けに提供

イメージナビは6月11日、開発中のクリエイティブプラットフォーム「ミツカルモール」において、AI開発や機械学習モデルの訓練に必要な画像データセットを法人向けに提供する新サービスを開始すると発表しました。

ミツカルモールは、同社が2025年10月の正式リリースを予定している新しいプラットフォームで、クリエイターと企業が協働することで最適な表現を届けることを目的としています。そのなかから6月25日に先行公開されるのが、AI学習用画像を専門に扱う収集サービスです。

このサービスでは、「ストックフォト」「オーダーメイド撮影」「ユーザー投稿」という3つの手段を組み合わせた画像調達が可能です。高品質なストック素材はもちろん、プロのカメラマンによる指定テーマの撮影、さらには全国の登録ユーザーによる生活シーンの投稿など、スピード・現実性・法的確実性のすべてを兼ね備えた実用性の高い提供体制を構築しています。

なお、すべての画像には「AI学習用途に限定したライセンス契約」が適用されており、著作権の所在や二次利用制限が明確に定められています。これにより企業側での複雑な権利処理を省くとともに、法的リスクを大幅に軽減することが可能とのことです。

スタバのバリスタ専用AI

スターバックスは6月10日、生成AIを活用したバリスタ支援ツール「Green Dot Assist」を発表しました。まずは米国の35店舗で導入を開始するとのことです。

Green Dot Assistは、店舗のバリスタがマニュアルを検索することなく、リアルタイムで質問できるAIアシスタントです。店舗内のiPadに話しかけたり入力したりすることで、ドリンクのレシピや機器のトラブル対応など、業務に必要な情報を即座に取得できます。これにより業務中の煩雑さを軽減し、従業員がより自信をもって接客に専念できる環境を整えることが目的です。

CNBCによると、同社のAI導入の背景には、米国内での売上低迷を受けた店舗運営の再構築があります。最高経営責任者のブライアン・ニコル氏は、注文ごとの提供時間を平均4分以内に短縮することを目標に掲げており、Green Dot Assistはその実現を支える中核技術と位置づけられています。将来的には機器の不具合報告を自動化したり、従業員の欠勤時に代替人員を提案したりと、さらに高度な支援機能の追加も検討されています。

AIによる従業員支援はスターバックスに限らず、WalmartやJPモルガン・チェースといった企業でも導入が進んでいます。しかし、AIチャットボットにはハルシネーション（幻覚）と呼ばれる誤回答のリスクも指摘されています。スターバックスではマイクロソフトとの協業により、正確な情報提供を担保する「グラウンディングエンジン」を導入しています。技術革新と人のつながりを両立させる今回の取り組みは、“カフェ体験”の在り方を大きく変える可能性を秘めています。

Writer：Ritsuko Kawai