詐欺業者の時間を浪費するためだけに生まれたAI：月刊エンタメAIニュース vol.59

2024.11.21先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

対詐欺電話おばあちゃんAI

英国の通信サービスプロバイダーであるO2は11月14日、詐欺電話による被害を防止するキャンペーンの一環として、取り留めのない会話を延々と続けることで詐欺業者の時間を浪費させる老婆風のチャットボット「Daisy」を発表しました。

Daisyは、Jim Browinigの名で活動しているスキャムベイター（わざと詐欺に引っかかって手口を暴く人のこと）の監修を受けて開発されました。生成AI技術により自律的な会話が可能で、とぼけたおばあちゃんを装った応対で会話を無駄に引き伸ばすことで、詐欺師の時間を40分以上も浪費した実績があるとのこと。架空の家族や趣味に関する世間話で散々盛り上がった挙げ句、虚偽の個人情報を提供して詐欺師をとことん翻弄します。

O2が実施した調査によると、英国では毎週5人に1人が詐欺のターゲットにされています。詐欺電話がかかってきたことがある人の約7割が、何らかの方法で詐欺業者に一泡吹かせてやりたいと感じているものの、半数以上の人は自分の時間を無駄にしてまで行動に移したくはないと回答しています。AIおばあちゃんのDaisyは、そんな人々の鬱憤を晴らすために誕生した救世主です。

詐欺電話をAIが自動検出

グーグルは11月13日、詐欺電話やマルウェアからユーザーをプライバシーを守るため、Android向けの新たなリアルタイム保護機能である「Scam Detection in Phone by Google」と「Google Play Protect Live Threat Detection」を発表しました。

Scam Detectionは、詐欺の可能性がある電話をAIモデルがリアルタイムで検出してくれる機能です。標準の電話アプリ（Phone by Google）に搭載されており、不審な通話内容を検知すると音声や振動、視覚的な警告で通知してくれます。すべてのデータ処理はデバイス内で実行されることから、会話内容が外部のサーバーに共有されることはありません。また、機能のオンとオフはユーザーが自由に切り替えられます。

Live Threat Detectionは、アプリの安全性とプライバシー保護を担っている「Google Play Protect」に新たに追加された機能で、有害なアプリやマルウェアをリアルタイムで検出してくれます。現時点では、ユーザーの同意なく個人情報を収集するストーカーウェアの検出に特化していますが、今後は他の有害アプリにも対応予定とのこと。この機能も「Private Compute Core」というAndroidの仕組みを通じてデバイス上で実行されることから、ユーザーデータが収集されることはありません。

これらの新しい保護機能は現在、「Pixel 6」以降のスマートフォンでのみ利用できます。今後、さらに多くのAndroidデバイスにも提供していくということです。

GeminiアプリがiPhoneで利用可能に

グーグルは11月14日、これまでAndroid限定で提供していたパーソナルAIアシスタント「Gemini」のモバイルアプリを、iOS向けにApp Storeでも公開しました。

Geminiは、OpenAIのChatGPTに対抗して開発された生成型AIチャットボット。2021年に同社が発表した大規模言語モデル「LaMDA」をベースに開発され、「PaLM」および「PaLM2」を使ったモデルへとアップデートされた後、2024年2月に旧称のBardから改名するかたちで全世界で一般公開されました。今年5月からはAndroid向けにモバイル版の提供を開始。グーグルのスマートフォン「Pixel」シリーズには標準で搭載されています。

音声入力に対応した「Gmini Live」は、チャットボットが話している最中に質問したり話題を変更したりすることも可能で、面接の練習や観光ガイド、アイデアのブレインストーミングなどに幅広く活用できます。また、チャットボットの音声は10種類から選んでカスタマイズ可能。現在、Gemini Liveは日本語を含む10以上の言語で利用できます。今後、対応言語をさらに追加していく予定とのことです。

このほか、Geminiは画像生成モデル「Imagen 3」を使って文章から画像を出力することもできます。さらに、GoogleアプリやGoogleマップ、Gmail、YouTubeなど、グーグルが提供する他のアプリとシームレスに連携することで、自然な会話のなかで必要な情報をスムーズに表示してくれます。

思いがけない乗換の遅れを先読みするAI

ナビタイムジャパンは11月15日、スマートフォン向けの乗換案内アプリ「乗換NAVITIME」に、混雑する乗換駅を避けて代替ルートを提案してくれるAI機能を追加しました。

ナビタイムジャパンによると、「駅の混雑により乗換に間に合わず、到着予定時刻に遅れてしまった」「乗換のため混雑する構内を急いで移動した」といった声がユーザーから寄せられたことから、電車や駅の混雑情報を提供してきたノウハウを活かした新たな機能の提供に至ったということです。

この新機能は、時系列解析のAIモデルを用いて駅の混雑具合を予測することで、駅構内における最大歩行速度を算出しています。これに次に乗車する電車のホームまでの移動距離や時間帯、イベントなどの突発的な要因による混雑、駅の許容量などを考慮して、通常の乗換時間で間に合うかどうかを判断します。

到着時刻を設定してルート検索した場合は、推奨出発時間や混雑する乗換駅を回避する代替ルートを提示してくれます。出発時刻を指定した場合は、余裕をもった乗換が可能な次の列車を提案することで、到着予定時刻を確認できるということです。なお、総合ナビゲーションアプリ「NAVITIME」への実装も予定しているとのこと。

Writer：Ritsuko Kawai