Soraだけではない。群雄割拠する動画生成AIの動向まとめ

2024.10.23アート

2024年における生成AIの重要なトレンドのひとつには、動画生成AIの台頭があります。このAIは、映像制作だけではなくマーケティングや教育に活用されるポテンシャルがあります。そこで本稿では動画生成AI市場を概観したうえで、注目度の高い動画生成AIの動向をまとめます。

2033年には約37億ドル規模に成長

アメリカの調査会社MarketResearch.bizは2024年4月、世界の動画生成AI市場に関するレポートを発表しました。同レポートによれば、2023年における同市場の規模は3億5,110万米ドルであり、年平均成長率27.2%で成長して、2033年には36億6,580万米ドルになると予想されます。

2023年における動画生成AI市場を活用セグメント別に見ると、映像製作／制作が33%ともっとも大きいシェアを占めています。このセグメントにおける活用事例はすでに多数あり、今後は伝統的な映像製作／制作の在り方が大きく変革されると考えられます。

映像製作／制作についで大きいセグメントが、VRとARのコンテンツ制作です。このセグメントは、空間コンピューティングを可能とするApple Vision ProやMetaが開発中のARメガネであるOrionのようなXRデバイスが普及すれば、より大きくなるでしょう。

マーケティングとプロモーションにおける動画生成AI活用も進んでいます。マーケティング対象者の嗜好や行動に合わせてマーケティング動画を生成することで、より緊密なエンゲージメントの構築が期待できます。

映像レコメンデーションにも、動画生成AIは活用されます。従来の映像レコメンデーションは既存の映像作品をおすすめとして出力していましたが、今後はユーザごとにパーソラナイズされた動画を生成するビジネスモデルが台頭することでしょう。

動画生成AI市場を地域別に見ると、現在もっとも大きいシェアを占めているのがアメリカをふくむ北米であり45.4%を占めています。この地域にはハリウッドを中心とした巨大な映画産業があるため、動画生成AI活用に対して大規模な投資が行われています。

今後もっとも成長が期待されるのは、日本や中国を含むアジア太平洋地域です。この地域からは、ハリウッドとは異なる動画生成AI文化が生まれることでしょう。そのほかには中東やラテンアメリカも、新興の動画生成AI市場として台頭すると予想されます。

動画生成AIを世界に知らしめたOpenAI Sora

動画生成AIの研究開発は2022年頃から行われていましたが、これらのAIが注目を集めるきっかけを作ったのは、2024年2月に発表されたOpenAI開発のSoraです。同AIが生成する動画は、それ以前の動画生成AIと比較して圧倒的に高精細であり、再生時間も当時としては長い最大1分でした。

OpenAI Soraが画期的な性能を実現した背景には、大量の動画を小さい小片に分割したうえでテキストのように学習する技法の採用がありました。こうした技法によって、LLMが学習データを増加させることで高性能化したように、動画生成AIも進化できることを証明しました。

OpenAIはSoraを少数のアーティストに提供して、彼らに動画作品を制作してもらいました。それらは、同社のYouTube公式チャンネルで視聴できます。2024年9月には、SoraをはじめとするOpenAIのAIツールを活用したアート作品に関する美術展がアメリカ・ニューヨークで開催されました。しかしながら、2024年10月時点でSoraの一般公開時期は未定です。

YouTubeショート制作ツールに採用されたGoogle DeepMindのVeo

Google傘下のAI研究組織DeepMindは2024年5月、Google主催の開発者カンファレンスGoogle I/O 2024において、Veoを発表しました。最長1分の動画を生成できる同AIは、Soraに匹敵する性能を実現しています。

2024年9月18日には、VeoがYouTubeクリエイター向けツールDream Screenに実装されることを発表しました。同ツールに対してテキストプロンプトを入力すると、その内容を反映した4枚の静止画像が生成され、そのなかから1枚を選ぶと6秒のショート動画が生成されます。YouTubeクリエイターは、同ツールを2024年内には使用できるようになります。

デモ動画：https://deepmind.google/api/blob/website/media/Veo_CreationMediaPicker.mp4

Veoには、DeepMindが開発したAI生成コンテンツ識別技術であるSynthIDが活用されています。この技術は、動画内に人間には認識できない電子透かしを挿入したうえで、専用ツールを使うと電子透かしを識別できるというものです。

オーディオ生成も可能なMetaのMovie Gen

Metaは2024年10月4日、同社の最新動画生成AIであるMovie Genを発表しました。このAIは、同社が2022年7月に発表した最初の動画生成AI「Make-A-Scene」から始まった研究成果が結実したものです。Movie Genも、SoraやVeoと同等な画質の動画を最大16秒生成します。

Movie Genには、SoraやVeoにはない生成機能が実装されています。例えばパーソナライズド・ビデオは、人物画像とその画像を説明するテキストプロンプトを入力すると、人物が入力内容にしたがって動作する動画が生成されます。正確なビデオ編集は、画像認識と動画編集を組み合わせた機能です。具体的には、入力動画内の特定のオブジェクトを編集する内容をテキストプロンプト入力すると、入力内容に従って動画を編集できます。

オーディオ生成は、動画とテキストプロンプトを入力すると、それらの内容に合致した環境音や効果音、あるいはBGMが生成されるというものです。Movie Genの一般公開は2024年10月時点では未定です。

企業向けカスタマイズにも対応するRunwayのGen-3 Alpha

AIスタートアップのRunwayは商用利用可能な動画生成AIのGenファミリーを提供しており、同ファミリーの最新版Gen-3 Alphaを2024年6月より提供しています。同AIはSoraやVeoに匹敵する高画質な動画を生成でき、テキストプロンプトに「クローズアップ」などの撮影用語を含めると、その用語を反映したカメラワークを実現します。料金プランは複数用意されており、無料プランでは125クレジットの範囲で同AIによる最大10秒の動画を生成できます。

Runwayは、Gen-3 Alphaを顧客企業に合わせてカスタマイズするエンタープライズ版も提供しています。こうした取り組みのひとつとして、アメリカの映像製作スタジオのひとつであるライオンズ・ゲートと業務提携しました。この提携によって、ホラー映画『ソウ』シリーズをはじめとした同スタジオが著作権を所有する映像作品を学習データとして使用できるようになりました。このような言わば”ライオンズ・ゲート版Gen-3モデル”について、ほかの映像制作スタジオやクリエイターに有料提供することも検討されています。

責任あるAIモデル提供を強調するAdobe Firefly Video Model

Adobeは2024年10月14日、同社が提供する生成AIファミリーであるAdobe FireflyにAdobe Firefly Video Modelベータ版を追加実装したことを発表しました。同AIを解説した公式ブログ記事によると、テキストプロンプトに照明、撮影、ムード等に関する言葉を多用して具体的に動画を説明すると、高品質な出力が期待できます。

Adobeは、Adobe Firefly Video Modelの訓練に際して著作権的に安全な学習データを使用していることを強調しています。こうした同社の言動は、長年にわたりクリエイターを同社ツールによってサポートしてきた”クリエイターファースト”な姿勢があらわれていると言えます。

8つの異なるカメラアングルの動画を生成するStability AIのStable Video 4D

画像生成AIのStable Diffusionファミリーを開発・提供するStability AIは2024年7月24日、動画生成AI「Stable Video 4D」を発表しました。このAIは、1つのオブジェクトを撮影した動画を入力すると、8つの異なるカメラアングルから撮影した動画を出力するというやや特殊なものです。同AIはまだ研究段階にありますが、将来的にはゲーム開発やXRコンテンツ制作への応用が期待されています。