生成AIに固有な表現領域を探求するアーティストたちの活動を紹介

2024.10.16アート

画像生成AIは、”テキスト入力による画像制作”という新しい創作技法をもたらしました。近年では新技法にとどまらず、生成AIを使うことでアート作品の在り方自体を問いただす創作活動が試みられています。そこで本稿では、”生成AI時代のアート”制作に探求しているアーティストたちを紹介します。

Googleのアート的実験が集まったアプリ「Google Arts＆Culture」

Googleが開発・提供する無料スマホアプリ「Google Arts＆Culture」は、同社によるアート的実験から誕生したアプリや機能を集めたものです。同社は現在までにさまざまなAIを活用したアート系アプリを発表していますが、2024年には生成AIにフォーカスしたアプリを公開しています。

参考記事：セルフィーに似た名画発見からクリムトの名画の復元まで。Googleがてがけたアート系AI事例3選

Art Selfie 2は、2023年に発表したArt Selfieを進化させたものです。Art Selfieは撮影した顔画像とよく似た著名な肖像画を表示するものでしたが、Art Selfie 2は顔画像をユーザが選択したアートスタイルにもとづいて変貌させるものです。例えば「中世の騎士」を選択すると、顔画像が中世西洋の甲冑を着た騎士のように変化します。

Musical Canvasは、ユーザがディスプレイにらくがきをすると、それにもとづいて音楽を生成するものです。音楽生成後は、らくがきに対する品評もテキスト表示されます。らくがきにはフィルター効果も設定でき、例えば「Pixelate」を設定するとビットマップイラスト風になります。らくがきに対する品評の生成にはGemini 1.0 Proが活用され、音楽の生成にはMusic LMが使われています。

生成例：https://storage.googleapis.com/gweb-uniblog-publish-prod/original_images/MusicalCanvas_Landscape_01.gif

Art Transfer 2は、生成対象が顔画像に限定されていたArt Selfie 2を進化させたものであり、あらゆる画像をユーザが選択したアートスタイルにもとづいて変化させます。例えば「ポスト印象派」を選択すると、画像はゴッホやセザンヌが描いたような画風に変化します。画像生成後には、選択したアートスタイルに関する解説文も表示されます。

Google Arts＆Cultureでは、以上のようなアート的生成アプリに加えてアート的なゲームもプレイできます。そうしたゲームには、古今東西のアート作品にインスパイアされたテキストアドベンチャーゲーム「The Forever Labyrinth」などがあります。

AIによって自然を再構築するレフィック・アナドル

トルコ出身のメディアアーティストであるレフィック・アナドル（Refik Anadol）は、大量のデータとAIを活用したインスタレーションを制作することで知られています。彼の代表作のひとつである2019年発表の「WDCH Dreams」は、同年に結成100周年を迎えたロサンジェルス・フィルハーモニックの本拠地ウォルト・ディズニー・コンサートホールの壁面に、AIによって分類された同管弦楽団の100年分の撮影画像をプロジェクションマッピングで投影するというものでした。

近年のアナドルは、AIによって自然を再構築する作品を発表しています。2024年1月にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会の会場で初披露された「Large Nature Model」は、地球の自然を撮影した画像を学習した生成AIが神秘的に再構築された自然に関する動画を出力するインスタレーションです。この作品は、2024年3月開催のNVIDIAによるカンファレンスNVIDIA GTC 2024でも展示されました。

2024年2月にイギリス・ロンドンで公開された「Echoes of the Earth : Living Archive」は、上記のLarge Nature Modelを使って、サンゴ礁をテーマにして生成した動画を展示したインスタレーションです。サンゴ礁にインスパイアされた動画を見せることで、地球環境のかけがえのなさを訴えようとしています。

アナドルは、2023年9月に開業した米国ラスベガスにある半球型アリーナSphereの球面に表示されている映像作品「Machine Hallucinations — Sphere」も手がけています。この作品もAIが生成した画像から動画を制作しており、学習データには人工衛星が撮影した宇宙の画像もふくまれています。

過去作品を学習データとして活用した「Rhizomatiks Beyond Perception」

テクノロジーを活用したアート作品を制作するクリエイティブチームRhizomatiksは、2024年6月末から10月にかけて東京都・天王洲にあるKOTARO NUKAGAにおいて、個展「Rhizomatiks Beyond Perception」を開催しました。この個展では、同チームが開発した画像生成AIが生成する画像と動画が展示されました。

Rhizomatiks Beyond Perception解説ウェブページでは、この個展で開発されたAIモデル「Beyond Perception Model」の技術的解説が掲載されています。同モデルの最大の特徴は、Midjourneyのような既存の画像生成モデルを一切使用せずに、白紙の状態から開発したところです。

学習データについても既存のデータセットを用いずに、Rhizomatiksが過去に制作した映像と、新規に制作した映像を合わせた108本の映像データを使いました。このデータから合計17万枚の静止画を抽出して、Beyond Perception Modelの学習データセットとしました。

Beyond Perception Modelの学習過程では、VAE EncoderとU-Netが使われました。前者によって学習データの特徴を保持したまま圧縮して、後者によって圧縮した画像を拡大して高解像度の画像を生成できるように学習しました。画像生成では学習とは逆方向となるU-NetからVAE Decoderへの処理が実行されることで、ノイズから高精細な画像が生成されます。画像生成時の入力はテキストではなく、学習データを構成する静止画に付与されたユニークIDが用いられました。

Rhizomatiks Beyond PerceptionではBeyond Perception Modelの出力展示だけではなく、このAIモデルの販売も行われました。販売価格は550万円+税であり、購入者には同モデルの使用ライセンスが譲渡され、著作権に問題のない学習データを用いた追加学習も可能となります。

Rhizomatiks Beyond Perceptionは、自作を学習データとしたAIモデル開発やAIモデル自体の販売によって、生成AI時代のアート作品の在り方を問いかける試みと言えるでしょう。