動画生成AIの進化とAI俳優の登場：月刊エンタメAIニュース vol.70

2025.10.22先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

動画におけるGPT-3.5相当の進化

OpenAIは9月30日、最新の動画生成モデル「Sora 2」を発表しました。

Sora 2は、2024年2月にリリースされた初代「Sora」の後継モデルで、物理現象を表現する精度が大幅に向上しています。従来の動画生成モデルでは困難だった複雑な動作の再現が可能になりました。OpenAIはSora 2について、「動画におけるGPT-3.5に相当する段階への進化」と位置づけています。

具体的には、複雑な動作が組み合わさったオリンピックの体操演技や、浮力と剛性の力学を正確に再現したパドルボードでの後方宙返りなど、従来モデルが苦手としていた物理法則に忠実な表現を出力できるようになりました。また、バスケットボール選手がシュートを外した際にボールがゴールに瞬間移動してしまうような、従来モデルに見られた不自然な現象も改善されています。

さらに、Sora 2は汎用的な動画・音声生成システムとして、現実感のある環境音や効果音の作成も可能です。また、「カメオ」という新機能を使えば、ユーザーが撮影した動画から人物の外見と音声を正確に再現し、Soraが生成したあらゆる環境に挿入することもできます。

同日、OpenAIはSora 2を搭載したiOS向けアプリ「Sora」もリリースしました。動画の生成やリミックスはもちろん、カメオ機能を使って自分や友人を動画に登場させることもできます。まずは米国とカナダで提供を開始し、他の国や地域へも順次展開していく予定とのことです。

さらに自由度を増す動画生成AI

グーグルは10月15日、AI動画制作ツール「Flow」の大幅なアップデートと、最新の動画生成モデル「Veo 3.1」を発表しました。

グーグルによると、5カ月前にFlowがリリースされて以来、2億7500万本を超える動画が生成されています。今回のアップデートは、より詳細な編集機能や音声機能の拡充を求めるユーザーの要望に応えたかたちです。

Veo 3.1は、より豊かな音声表現やナラティブの制御、そして実物に忠実な質感の再現を実現しています。特に、プロンプトへの準拠性が強化されたことで、画像から動画を生成する際の音声と映像の品質が劇的に改善されています。

今回のアップデートでは、既存の機能すべてに音声生成機能が追加されました。「Ingredients to Video」機能では、複数の参考画像を使用してキャラクターやオブジェクト、スタイルをコントロールするとともに、イメージ通りのシーンを音声付きで作成できます。「Frames to Video」機能を使えば、開始フレームと終了フレームを指定して2つのフレームをシームレスにつないだ動画を生成できます。これにより、芸術的で壮大な場面転換が可能になりました。このほか、「Extend」機能により、1分以上の長尺動画も作成できるようになりました。

さらに、より精密な編集機能も追加されています。「Insert」機能ではシーンに新しい要素を追加でき、自然な仕上がりになるようにFlowが影や照明などの複雑なディテールを自動的に調整してくれます。また近日中には、不要なオブジェクトやキャラクターを削除する機能も提供される予定とのこと。Flowが背景と周囲の環境を再構築することで、まるで最初から存在しなかったかのような映像を作成できるということです。

すべてのWindowsをAI PCに

マイクロソフトは10月16日、Windows 11を搭載したすべてのPCを「AI PC」に変革するための大規模アップデートを発表しました。

今回のアップデートは、オペレーティングシステムにCopilotを統合することで、より多くのWindowsユーザーに高度なAI技術を提供することが目的です。マイクロソフトはAI PCの要件として、自然な対話による操作、画面の内容の理解とガイダンスの提供、そしてユーザーの許可のもとで代理操作を実行する能力の3点を挙げています。

主要な新機能として、音声起動ワード「Hey Copilot」がすべてのWindows 11 PCで使えるようになりました。これにより話しかけるだけでCopilotとの対話を開始できます。マイクロソフトによると、テキスト入力のみの場合と比較して、音声入力を使える環境ではCopilotの利用頻度が2倍に増加することがわかっています。

さらに、Copilot Visionが全世界で利用できるようになり、デスクトップやアプリケーションの画面共有、ハイライト機能による操作ガイド、Word・Excel・PowerPointにおける完全な文脈理解などの機能が提供されます。近日中には、音声だけでなくテキストによる対話も可能になる予定とのことです。

Windows Insider向けには、タスクバーに統合された新しいCopilot体験や、ローカルファイルに対するCopilot Actionsのプレビューが提供されます。後者は、休暇の写真の整理やPDFからの情報抽出など、ユーザーに代わってPCのローカルファイルに直接アクションを実行できる実験的な機能です。

このほか、OneDriveやOutlook、Googleの各種サービスと連携できるCopilotコネクタ機能、ManusによるWebサイト作成のAIアクション、ROG Xbox AllyでのGaming Copilot（ベータ版）なども導入されるということです。

AI俳優がハリウッドデビュー

英国の制作会社Particle6は9月27日、AIで生成された架空の俳優「ティリー・ノーウッド」を、スイスのチューリッヒ映画祭で正式に発表しました。

ノーウッドは、俳優からプロデューサーに転身したオランダ人のエリン・ファン・デル・フェルデンが2015年に設立したParticle6のAI部門によって創造されました。ロンドンを拠点とする俳優という設定で今年5月からInstagramのアカウントを開設しており、現在のフォロワー数は約6万人に上ります。

チューリッヒ映画祭では、複数のタレントエージェンシーがすでにノーウッドとの代理契約を検討していることが明かされ、その後に大きな論争に発展しました。米国の俳優組合であるSAG-AFTRAは声明を発表し、「ティリー・ノーウッドは俳優などではなく、数々のプロの作品を無断で学習させたコンピュータープログラムによるキャラクターにすぎない」と批判しています。また、人生経験も感情もないAIの演技に観客は興味を示さないだろうと、AI俳優の存在意義を完全に否定しました。

このほか、自身の外見や所作がノーウッドに使用されたと主張している俳優やミュージシャンも出てきています。さらに、すでに多くの著名な俳優が反対意思を表明しており、一部のエージェンシーもノーウッドとは契約しない意向を明確に示しています。

こうした反応に対してファン・デル・フェルデンは、ノーウッドは人間の俳優の代わりではなく、あくまで芸術作品であると反論しています。アニメーションや人形劇、CGIが新しい可能性を切り拓いてきたように、AIはストーリーを構築するための新たな手段を提供してくれるとコメントしています。

なお、ハリウッドの大手スタジオはSAG-AFTRAとの契約のもと、合成キャラクターを使用する場合は組合への通知が義務付けられており、これまでのところ一切の通知は届いていないとのことです。

一連の騒動は、2023年のハリウッドストライキでも焦点となったAI技術の使用をめぐる懸念を再燃させ、クリエイティビティの本質と俳優の仕事の未来について激しい議論を巻き起こしています。

Writer：Ritsuko Kawai、Photo by