投稿コミュニティや地上波アニメも登場。AI生成アニメビジネスの広がり

2025.6.04アート

2024年2月にOpenAI開発の動画生成AI「Sora」が公開されてから1年以上が経過した現在、同社のライバルGoogleが動画生成AIシリーズVeoを公開したり、多数の商用動画生成AIが登場したりして、動画生成AI市場の立ち上がりが本格化しました。こうした動画生成AI台頭の波は、日本ではアニメ生成AIとなって及んでいます。そこで本稿では、日本におけるAI生成アニメビジネスの最新動向を紹介します。

3分でアニメを生成する「Animon.ai」

熊本県に本社を置く株式会社アニモンドリームファクトリーは2025年4月25日、日本アニメ調のアニメ制作に特化したAI動画生成プラットフォーム「Animon.ai」の提供を開始しました。

同プラットフォーム開発の背景には、日本アニメが世界的な人気を博しているにもかかわらず、その制作現場は依然として長時間労働かつ低賃金という過酷な環境におかれていることがあります。同プラットフォームはこうした問題を解決するために、従来、数十時間を要していたアニメーション制作工程を、わずか3分程度で完了できる革新的な技術を提供することにしました。

以上のような開発の背景は、以下のような3つの料金プランにも反映されています。どのプランにおいても動画生成回数無制限なので、さまざまな試行錯誤が可能となっています。

無料プラン（個人ユーザ向け）：動画生成回数に制限なし。生成タスクは1件のみ実行可。ダウンロードした動画にはAnimonロゴの透かしが入る。5GBまでプラットフォームで動画を保存可能。
有料プラン（個人クリエイター向け）：月額9USドルで動画生成回数に制限なし。生成タスクは2件まで。ダウンロードした動画には透かしなし。50GBまでプラットフォームで動画を保存可能。
有料プラン（制作プロダクション向け）：近日公開予定。個人クリエイター向け有料プランをアップグレードした有料プランを制作プロダクション向けに提供。

Animon.aiの操作は簡単で、動画の素材となる画像をアップロード後、説明文を入力して「生成」ボタンをクリックすると、動画生成が始まります。ただし、無料プランでは生成される動画の長さは3秒と短いので、本格的な動画生成を試みたい場合は有料プランに加入することを検討してもよいでしょう。

AI専門メディアAInfotmationが2025年5月9日に公開した記事では、Animon.ai使用時の説明文入力に関する2つのコツを解説しています。1つめは、「背後からの視点で、キャラクターが海に向かって歩いていく」のように視点を意識した説明により、ある程度カメラアングルを制御できます。2つめは、「小さくて、手足の短いクマが、笑顔で友達と話すシーン」のように具体的かつ詳細な説明を入力すると、意図した動画が生成されやすくなる、とのことです。

AIを活用した動画のコンテストを開催したPuri Prince

「ブロックチェーンとAIを活用し、誰もがトップクリエイターになれるサービスを提供し、日本のアニメに革新をもたらす」ことを社是としているPuri Prince社は、AI技術を活用することを必須応募条件とするショートアニメコンテスト「AI×Web3アニメコンテストPrince JAM!2025」を開催しました。

90秒から2分以内のAI技術活用動画を募集する同コンテストは、2025年4月1日から同月30日までを応募期間としていました。同年5月23日には、ファイナリストに選出された10作品が発表されました。同月28日にはファイナリスト作品の上映と授賞式が全電通ホールで開催され、ファイナリスト作品制作者はPuri Princeによる作品の商業化に向けたサポートが受けられます。

2025年5月4日には、Puri Princeが運営する生成AIを活用したアニメ・マンガ創作コミュニティプラットフォーム「GoPrince」の2025年夏公開に向けて、クリエイターを対象としたαテストが開始しました。

以上のテストに合わせて、特定のテーマに沿ったAI活用をアニメあるいはマンガ画像の投稿を募集する「GoPrince投稿キャンペーン」も実施されました。2025年4月30日から5月13日まで開催されたこのキャンペーンでは、テーマとして「#胸キュン青春ストーリー」や「#刀の記憶」などが掲げられました。キャンペーンに投稿された作品は審査され、1位の25,000円をはじめとして、上位100名までに賞金が贈られます。

2025年5月22日には、同キャンペーンの審査結果としてGoPrince厳選ベスト動画アワードが発表されました。10本の作品が入賞し、最優秀賞には「AIとの対峙」を描いたストーリーと緻密な世界観が印象的なRockzheartさんが制作した「FIREWALL」（以下の画像参照）が選ばれました。

以上のようなプロモーションを展開しているGoPrinceは、あらかじめ用意されたスキンやモーションなどのアセットを活用して、アニメ制作に関する専門知識がなくても簡単にストーリー付きのアニメを作れるプラットフォームとなる予定です。

サポーティブAIによって誕生した地上波放映アニメ「ツインズひなひま」

「AIの力で、創造する人に力を」を標榜するAIスタートアップのKaKa Creationは、2025年春クールアニメとして「ツインズひなひま」を制作・放映しました。同作品は、画像生成AIを活用した地上波放送アニメとして注目されました。

KaKa Creationは同作品の制作にあたり、”サポーティブAI”というコンセプトを打ち出しています。このコンセプトは、アニメ制作において「AIはあくまでクリエイターの創作活動のための補助ツール」として位置づけたうえで、アニメーターの負担軽減とアニメの品質維持を両立させるAIを意味しています。

IT Media Newsが2025年3月3日に公開した同作品の制作フローを解説した記事によると、同作品はアニメのコマを画像生成AIによって出力しているわけではありません。具体的には3DCGソフトのMayaで3Dキャラクターを制作した後、そのキャラクターを撮影した画像を画像生成AIに入力して、CGのポリゴン感を除去したアニメ絵を出力したのでした。このように画像生成AIを言わば仕上げ処理に活用することで、アニメ1話分の制作期間を従来の2/3に短縮でき、色塗りなどの作業にもAIを使えば、将来的には1/10程度にもできるとされています。

KaKa Creationは「ツインズひなひま」をはじめとするアニメ制作の受託のほかにも、AIを活用したクリエイターとのコラボレーションによって、ソーシャルメディアプラットフォーム向けのショートアニメを制作するレーベル「TETTOU」や、漫画やアニメの彩色にAIを活用して制作期間短縮を実現するサービス「Toiro AI」を展開しています。

以上に紹介したように、日本のアニメ業界におけるAI技術活用は徐々に広がっています。こうしたAI活用の効果は、現時点では業務効率化や制作上の参入障壁を下げることに注目が集まっていますが、AI活用が進むにつれて、AIを使うことによってはじめて実現できる”AI生成アニメならでは”な表現が探求されることでしょう。

Writer：吉本幸記、Image by Đào Hiếu