3Dシーン生成AIも登場。普及前夜を迎える3Dオブジェクト生成AIの動向

2025.5.07アート

生成AIはテキストや画像の生成から始まり、次いで動画生成に及び、その最前線は3Dオブジェクトや3Dシーンの生成にまで広がろうとしています。3Dオブジェクトと3Dシーンの生成自体は数年前から研究が進められていましたが、最近では企業がこの技術の本格的な商用化を目指しています。そこで本稿では、これらの技術に関する最新動向を紹介します。

【参考記事】
その影響はゲーム業界にとどまらない。3Dオブジェクト生成AIまとめ
 1枚の2D画像から3DのファンタジーやSFの世界を生成する「3Dワールド生成AI」の最新動向

コミュニティ運営に熱心な注目のMeshy

最近急速に注目を集めているMeshyは、テキストあるいは画像を入力すると高品質な3Dオブジェクトを生成するAIです。また、既存の3Dオブジェクトのテクスチャをテキスト入力によって生成したり、3Dオブジェクトからアニメーションを生成したりもできます。アニメーションは、3Dオブジェクトに関節部となるマーカーを付与後、「走る」などのプリセットされたアニメーションを選択すると生成できます。さらに、2025年4月28日には異なった視点から表示した複数の2D画像から3Dオブジェクトを生成するNeRFのような機能も追加されました。

Meshyの特筆すべきところは、コミュニティ運営に熱心なことです。特定の企業に属していないフリーランスのクリエイターは、Meshy Creator Programに参加することでMeshyを使って生成した3Dオブジェクトをコミュニティに公開できます。公開した3Dオブジェクトがモデレーターに紹介されると、Meshyを使うのに必要なクレジットを獲得できます。コミュニティから評価されたクリエイターは、さらに自作を公開できるようになる仕組みというわけです。

公式ブログも充実しており、Meshyの使い方を解説する記事からユーザの体験談まで掲載されています。そうした記事のひとつには、インディーホラーゲーム「Remnants of R’lyeh」でMeshyを活用した体験談を記したものがあります。同ゲームを開発するDarkTree Game Studioは、多くのインディーズゲームスタジオがそうであるように、開発費と品質のバランスに苦慮していました。こうしたなか、Meshyをゲーム開発に導入することで高品質なゲームオブジェクトを低コストで制作することに成功したのでした。

Meshyは、AI研究者支援も行っています。同社の創業者であるユアミン・フー（Yuanming Hu）氏は、奨学金をもらいながらMIT博士課程を卒業することで起業の足がかりを築いた経験から、後進の研究者を支援するMeshyフェローシップ制度を設立しました。この制度は、3D生成AIを研究する学生が実績を明記したうえで支援を申請するものなのですが、2025年には2名の学生がグランプリを受賞して、10,000USドルの研究資金とMeshyの年間サブスクリプションを受け取りました。

3Dオブジェクトをトークン化して生成するRobloxの「Cube 3D」

2025年3月17日、ゲーム共有プラットフォームRobloxは3Dオブジェクトと3Dシーンをテキストから生成できるAIモデル「Cube 3D」を公開しました。同モデルを使うと、例えば「黄金のヘリコプター」とテキスト入力すると、テキスト内容に合致する同プラットフォーム用の3Dオブジェクトが生成されます。

Cube 3Dの公開に合わせて掲載されたRoblox公式ブログ記事によると、同モデルは多くの生成AIで活用されている技術であるTransformerにインスパイアされつつも、独自に開発されたものです。Transformerは後続するテキストの予測を繰り返すことでテキストを生成していますが、Cube 3Dは入力テキストに後続する3Dオブジェクトを予測しています。

Cube 3Dにおいてテキストに後続する3Dオブジェクトを予測できるのは、3Dオブジェクトをトークン化しているからです。入力テキストもトークン化されるので、内部処理的にはトークンの予測をしているだけとなります。

Cube 3D公開時点での入力形式はテキストのみに対応していますが、将来的には画像による入力にも可能となる予定です。入力画像もトークン化すれば、内部処理的にはテキスト入力と同様となります。

Roblox開発チームは、Cube 3Dを進化させることも計画しています。進化によって実現するのは”4D制作”というコンセプトで、3Dオブジェクトに相互作用という新たな次元を加えることを目指しています。4D制作の詳細は不明ですが、生成した3Dオブジェクト間に相互作用によって生じるアクションやアニメーションを設定できるようになるかもしれません。

プリセットカメラ軌道で撮影された3Dシーン生成や3Dワールド生成も登場

3Dオブジェクト生成モデルに類似するAIとして、3Dシーンを生成するAIもあります。そうしたAIのひとつとして、Stable Diffusionを提供するStability.aiが2025年3月19日に発表したStable Virtual Cameraがあります。このAIは、1枚の画像を入力後、360°旋回やスパイラルといったプリセットされている14のカメラ軌道を設定すると、入力画像にもとづいて生成された3Dシーンを設定したカメラ軌道に沿って表示するというものです。

Stable Virtual Cameraの機能を列挙すると、以下のようになります。

カメラ軌道はプリセットされた14種類のほかに、ユーザがカメラ軌道を定義できる。ユーザ定義の場合は、カメラが通過するポイントを複数指定する。
入力画像は最大32枚まで対応。入力画像が多いほど、生成される3Dシーンの画質は向上する。
生成されるシーン動画のアスペクト比は1:1、9:16、16:9であり、カスタムアスペクトにも対応。
生成されるシーン動画は最大1,000フレーム。周回するカメラ軌道の場合、同じ視点を通ると同じシーンを生成することで、シーンの一貫性を保つ。

現在アーリーアクセスを受け付けているAI「Intangible」は、テキスト入力すると、入力内容に沿った3Dシーンを生成します。例えば「街を作って」と入力すると、ビルや道路から構成された3Dの街が生成されるのです。

生成された3Dシーンに対して、テキスト入力から生成した3Dオブジェクトを配置することもできます。カメラ位置やアングルの調整も可能で、カメラから表示された3Dシーンから画像も切り取れます。さらに、3Dシーンに配置されたオブジェクトとカメラを動かすことで、動画生成にも対応。こうしたIntangibleは、生成AIとゲームエンジンのワールド生成機能を融合させたものと言えるかもしれません。

2025年4月3日に公開されたCNET Japanの記事では、Intangible社幹部について報じています。同社を創業したチャールズ・ミゴス（Charles Migos）氏は、創業前はゲームエンジン大手のUnityでプロダクトデザイン担当バイスプレジデントを務めていた、とのこと。Unityで働いていた時にIntangibleの構想を思いついたものも、同社ではこのアイデアを実現できないことがわかったので起業しました。

Intangible社リードプロダクトデザイナーでPixerに20年勤務していた経歴を持つフィリップ・メスチャン（Philip Metschan）氏によると、Intangibleを活用すれば、テレビCM風の動画制作時間を大幅に短縮できます。同氏のような経験豊富なクリエイターが同AIを使えば、通常なら数週間を要するところ、3～4時間で制作できるようになります。

以上のようなIntangibleは、2025年6月に一般公開を予定しています。

3Dオブジェクトや3Dシーンの制作は、現状のグラフィック制作業務においてもっとも手間のかかるタスクのひとつと言えます。こうしたタスクが生成AIによって業務効率化されるのは、画像や動画の制作で生成AIの導入が進んでいることを考えれば不可避なのではないでしょうか。そして、近い将来、3Dオブジェクトや3Dシーンを生成するいくつかの有力なAIが、熾烈な市場競争を繰り広げることでしょう。

Writer：吉本幸記