生成AI法体制の最新動向：米国では創作的寄与を一部認め、英国では児童虐待画像生成AIに関する罰則を制定

生成AIに関する法や倫理の整備は、世界各国で取り組まれており、その内容は随時更新されています。この話題に関して、2025年になってアメリカとイギリスで注目すべき発表がありました。本稿では、アメリカの著作権法、アメリカ著述家ギルドの取り組み、そしてイギリスの生成AIに関する新法を解説します。

AI生成コンテンツにおける創作的寄与を一部認めたアメリカの著作権法

アメリカ著作権局は2025年1月、生成AIと著作権に関する新たな見解をまとめた文書を発表しました。この文書で示された見解を要約すると、以下のように箇条書きできます。

1. 見解1：生成AIのみによって出力された作品、または人間の制御が不十分な生成AI出力物に関しては、著作権を保護しない。
2. 見解２：プロンプトに関しては、人間による制御を認めない。
3. 見解３：生成AIの出力に人間の著者による独自な表現がふくまれる場合、人間の著者による表現の範囲に限り、その著作権を保護する。
4. 見解４：生成AI出力物に対する人間の貢献は、ケースバイケースで分析する必要がある。

見解２に関しては、複雑な文章で構成されたプロンプトには人間による表現がふくまれるので、著作権保護の対象になるのではないか、という疑問が生じます。この疑問に対しては、プロンプトが複雑であっても、それのどの部分が生成AIの出力に反映されるかは人間が制御できない、という観点から人間による制御性が退けられます。この論点に関しては、以下のようなプロンプトと生成AI出力事例を挙げています。

1. プロンプト：プロの写真、ローブを着て日曜版新聞を読みながらパイプを吸っているメガネをかけた猫、霧、雨、嵐、70mm、映画、非常に精細な木材、映画のような照明、複雑、シャープなフォーカス、ミディアムショット、（中央の画像構成）、（プロによるカラーグレーディング）、（（明るく柔らかい拡散光））、ボリュームのある霧、HDR 4k、8k、リアル
2. 出力画像：

以上の事例では、「非常に精細な木材」は画像に反映されていません。この事例のように、プロンプトの内容と出力結果は一意的に関連付けられないので、プロンプトを介した出力結果の制御はできない、と見なされるのです。

見解3についても、具体例が挙げて解説されています。最近では、プロンプトと出力画像の構図を入力すると、構図の細部を補完する生成AIが開発されています。こうしたAIを使った事例として、アメリカ著作権局の文書は、以下のようなものを引用しています。

プロンプト：若いサイボーグ女性（（（バラ）））頭から花が咲いている、フォトリアリズム、映画のような照明、ハイパーリアリズム、8K、超詳細

入力構図と出力画像：

以上の事例では、構図で描かれている顔やバラの輪郭と配置は人間が描いたものなので、出力画像においても輪郭や配置に限り、アメリカ著作権局は著作権の保護を認めました。その一方で、出力画像の照明表現、顔やバラの細部に関しては生成AIが補完した部分なので、その部分については著作権は保護されない、という見解が示されました。

見解4は、今後の生成AIの進化を想定した内容と言えます。生成AIはその出力を人間が制御しやすいように進化しており、生成AI作品における生成AIに由来する部分と人間に由来するそれは、今後ますます不可分なものとなり、区別が難しくなると考えられます。それゆえ、生成AIの進化に合わせて、人間に由来する部分を特定する観点も変わると予想されます。

アメリカ著述家ギルドは「人間著作者認証」の運用を開始

アメリカ人の作家をはじめとした著述家の権利を擁護する同国最古の組織アメリカ著述家ギルドは2025年1月29日、人間の著述家が著した作品であることを認証する仕組み「人間著作者認証（Human Authored certification）」の運用を発表しました。

生成AIの台頭以降、これらのAIツールを使って制作された書籍が市場に氾濫しているのは周知の通りです。こうした状況について、アメリカメディアのVoxは2024年4月、Amazonの電子書籍マーケットにおいて低品質な生成AI出力書籍が溢れていることを伝えています。

アメリカ著述家ギルドは、生成AI出力書籍と人間が執筆した書籍を区別する試みとして、同ギルドの会員に対して人間が執筆したことを認証したマークを配布することを始めました。この仕組みこそ、人間著作者認証です。

人間著作者認証を利用するには、以下のような手続きを行います。

1. 手順1：同認証を希望するギルド会員は、人間著作者認証ポータルにログインする。
2. 手順2：認証を受けたい書籍に関する情報を提出する。
3. 手順3：ライセンス契約書に署名し、許可された場合にのみ認証マークを使用することに同意する。
4. 手順4：書籍の表紙、背表紙、販促物などに使用できる、固有の認証マークを受け取る。

なお、認証マークの受理に際しては、AIツールを活用した文法やスペルチェックをはじめとした小規模なAI使用は許容されます。また、AIツールを活用したリサーチやブレインストーミングなどにもとづいて執筆された書籍も認証の対象になります。

現状では人間著作者認証を利用できるのはアメリカ著述家ギルドの会員に限られ、認証対象書籍はギルド会員の単著のみが対象となります。もっとも将来的には、ギルド会員以外の著述家による書籍や共著の書籍にも認証対象を拡大する予定です。

児童虐待画像生成AIツールの所持を罰するイギリスの新法

生成AI台頭による負の影響の最たるものは、生成AIを悪用して制作された実在の人物の性的な偽画像「ディープフェイクポルノ」です。この話題について報じた読売新聞オンラインが2024年12月に公開した記事によると、ディープフェイクポルノを制作できるとうたったサイト41件を対象にして国別のアクセス数を調べたところ、アメリカが約5,973万回で最も多く、インドが約2,457万回、日本が約1,843万回でした。このように、日本も決して”対岸の火事”ではないのです。

こうしたなかイギリス政府は2025年2月4日、ディープフェイクポルノのなかでも最も悪質な実在の児童を対象としたCSAM（Child Sexual Abuse Material：児童性的虐待資料）を取り締まる新法を発表しました。この新法は発表当時、CSAMを取り締まる法律としては世界初でした。

同法の内容は、以下のような4項目から構成されています。

1. CSAMを生成するAIツールの所持、作成、配布を違法とし、違反した場合、最大5年の懲役に処する。
2. AIを使って児童を性的虐待する方法を教えるAIの「小児性愛者マニュアル」の所持を違法とし、違反した場合、最高3年の懲役に処する。
3. CSAMに関連したウェブサイトを運営する者には、最高10年の懲役に処する刑法を導入する。
4. CSAMの流入を防止することを目的として、イギリス国境警備軍に必要な権限を与える。具体的には被疑者が所持するデジタル機器のロック解除を強制し、検査を実施することを可能とする権限が与えられる。

以上の発表では、CSAMを監視する団体IWF（Internet Watch Foundation：インターネット監視財団）の調査結果を引用しています。その調査によると、同財団に報告されたAIによって生成されたCSAMに関する通報は2023年には51件だったのに対して、2024年には約380%増の245件に激増しているのです。

今回発表されたイギリスのCSAM取り締まり法は、激増しているCSAMの氾濫を早期に阻止することが目的で制定されたと考えられます。

日本に目を転じると、AI戦略会議が生成AIのリスクに対する制度的な取り組みをまとめた案にもとづいて、生成AIに関する法律制定が国会で審議される見通しです。こうした審議では、本稿で紹介したような海外の先行事例が参照され、その内容の一部が日本版「生成AI規制法」とでも言うべき法律に反映されるかもしれません。

Writer：吉本幸記、Photo by Unsplash（Tingey Injury Law Firm）