ゲーム生成の新潮流、ストーリーtoゲーム生成AIの最新動向を紹介

近年、生成AI研究のテーマのひとつとしてゲーム生成が注目されています。モリカトロンAIラボでは、こうしたAIの事例として3Dゲームのグラフィックを生成するものや、ゲームストーリーを生成するものを紹介してきました。本稿では、新たなタイプのゲーム生成AIである”生成されたストーリーにもとづいてゲームを生成する”AIに関する研究を2つ紹介します。

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LLMが段階的に2D探索ゲームを生成する「Word2World」

南アフリカのウィットウォーターランド大学らの研究チームは2024年5月、LLMが生成したストーリーから2D探索ゲームを生成するAI「Word2World」を発表しました。このAIは、例えばLLMが生成した「森の奥深くに隠されている財宝を持ち帰る」といったストーリーにもとづいて、木のタイルなどが敷き詰められた2D探索ゲームを生成するというものです。

Word2Worldのアーキテクチャは以下の画像のように表すことができ、ストーリーの生成からプレイ可能なゲームの完成までには以下に箇条書きするような処理が実行されます。

• LLMがゲームの世界観や登場人物、目的が説明されたストーリーを生成する。
• 生成されたストーリーから、LLMが登場人物とゲームステージを生成するのに必要なタイルの情報を抽出する。
• さらにLLMがゲームの目的とゲームプレイにおいて重要となる（宝物のような）タイル情報を抽出する。
• 抽出されたゲームを構成する情報にもとづいて、LLMがタイルを敷き詰めて2D探索ゲームのステージを生成する。タイルの位置と種類は、テキスト情報として処理する。なお、タイルは無料ゲーム素材のデータセットOryx Design Labを活用する。Word2World自体には、ゲームグラフィック生成機能はない。
• 各行のタイル数を数えて、タイルの敷き詰めに失敗がないかどうかをチェックする。

以上の処理に加えて、Word2Worldの性能計測のために、以下の評価処理も実装しました。

1. LLMエージェントが生成されたゲームをプレイして、各種指標を計測する（各種指標については後述）。なお、LLMプレイヤーが実行できるゲーム内行動は、「上へ移動」「下へ移動」「右へ移動」「左へ移動」「オブジェクトを拾う」「敵を倒す」である。
2. 2Dマップの探索アルゴリズムのひとつであるA-starを実行するエージェントが生成されたゲームをプレイして、ゲームのクリア可否を検証したうえで、ゲームクリアのための最短経路を発見する。

実装するLLMに左右されるゲーム品質

以上に解説したように、Word2Worldはストーリー生成からタイルの敷き詰めにいたるまで、LLMがその処理を実行します。それゆえ、同AIに実装するLLMによって、その性能が変わることが予想されます。この予想を実証するために、研究チームはGPT-4をはじめとするさまざまなLLMを実装して、ストーリーからのゲーム生成を10回行った結果を比較しました。性能比較には、以下のような指標を測定して行いました。

1. 新規性：生成された10のゲームステージが互いに異なっている度合い。
2. プレイアビリティ：A-starエージェントが探索したゲームクリアのための経路から算出
3. 新規的かつプレイアブル：新規的と認められたゲームステージに関するプレイアビリティの値
4. 一貫性：ストーリーがゲームステージに反映されているかどうかを評価。LLMエージェントが0～100で数値化する。
5. LLMプレイヤーの報酬：LLMエージェントがゲームの目的に対して行動した際の報酬。LLMエージェントのゲームプレイスキルを比較できる。
6. 完成：10のゲーム生成のうち、クリア可能なゲームを生成した回数

以上の指標を用いて、さまざまなLLMを使ったWord2Worldの性能を計測した結果は、以下の表のようにまとめられます。

モデルサイズの大きいclaude-3-opus-20240229とgpt-4-turbo-2024-04-09を実装した場合、相対的に高性能を発揮するのがわかります。ストーリーを反映したゲームステージを生成する能力を比較するのに適している「完成」に関しては、gpt-4-turboが優れています。多様なゲームステージの生成能力を示す「新規性」については、claude-3-opusが1位となりました。

Word2Worldの論文では、以下のような実際に生成されたゲームステージ画像も掲載されています。これらの画像からも、生成されたゲームステージが互いに異なっていることがわかります。

Word2Worldが示した”ストーリーtoゲーム”システムには、新しいゲーム開発技法やゲームシステムが誕生するポテンシャルがあります。例えば、ランダム生成される世界観やストーリーにもとづいたローグライクゲームが可能になるかもしれません。また、強化学習AIを訓練するための高度に複雑な環境の生成にも活用できると考えられます。

新規アクションを生成できる「STORY2GAME」

Word2Worldはストーリーとゲームステージに関する自由な生成を実現している一方で、プレイヤーが実行できるアクションは限定されていました。Word2World発表から1年後の2025年5月、アメリカのジョージア工科大学の研究チームは、LLMがアクションを生成するストーリーtoゲーム生成AI「STORY2GAME」を発表しました。

STORY2GAMEでは、ゲームのタイトルと世界観、プレイする2～6個のクエスト、ゲームのクリア条件を入力すると、LLMが入力内容に沿ったテキストアドベンチャーゲームを生成します。Word2Worldのようにグラフィカルなゲームステージは生成されませんが、ゲーム生成時に可能なアクションを生成します。STORY2GAMEでは、ゲームが生成される度にプレイヤーが実行できるアクションが異なるのです。

STORY2GAMEでは生成済みアクションに加えて、プレイヤーがプレイ中に新規に入力したアクションも実行できます。こうしたアクションを実行し続ければ、結果的に最初に生成されたストーリーとは全く異なる展開のゲームプレイを体験できます。ただし、新規アクションは、生成済みストーリーに登場するアイテムを操作する内容に限定されます。

新規アクションの生成アーキテクチャは、以下の画像のように表せます。例えば「警備兵の気をそらす」というアクションを入力した場合、アクションが事前に生成されているかどうかチェックします。生成されていなければ、新規作成したうえで新規アクションの実行可能条件をLLMが推論したうえで、新規アクション実行に必要なアイテムを生成します。そして、新規アクションがゲームに与える影響を推論したうえで、新規アクションが成功した場合、ゲームの状態を更新します。

STORY2GAMEによって、かつてないほどの自由度を備えたテキストアドベンチャーゲームが実現するように思われます。しかし、同AIには致命的な欠点があります。プレイヤーがストーリーの進行を妨げたり破壊したりするような新規アクションを入力すると、文字通りゲームは破綻してしまいます。研究チームはこの欠点を自覚しており、ゲーム破壊行為の対策を今後の研究課題として挙げています。

本稿で紹介した2つのストーリーtoゲーム生成AIは、いずれもグラフィック生成機能を実装していないものでした。こうした類のAIにグラフィック生成機能を実装した場合、生成ストーリーに合致したグラフィックを備えたゲームをプレイできるようになるでしょう。ストーリーtoゲーム生成AIは大きな可能性を秘めているので、さらなる研究とその成果が期待されます。

Writer：吉本幸記、Image by ゲームまてりあるず